2022年度に引き続き、フランス破毀院第3民事部2022年6月30日判決(Pourvois no 21-19.889、no 21-20.127、no 21-20.190)について検討し、その成果を判例評釈として公表した(荻野奈緒「新型コロナウイルス感染症の流行により休業を余儀なくされた店舗の賃料:フランスの場合――破毀院第3民事部2022年6月30日判決――」同志社法学75巻6号(2023年)1667-1698頁)。上記各判決は、行政上の措置により公衆の受入れを禁止された商事賃借人の賃料債務の帰趨について、賃借人の主張をいずれも排斥し、賃料債務の減免を認めなかった。主な争点は、不履行の抗弁(民法典1219条)ないし賃借物の滅失(1722条)が認められるかであったが、これらは実質的には賃貸人の引渡債務の不履行の有無という同じ問題に帰着する。破毀院は、行政上の措置が不動産を対象とするものであるか否かにかかわらず、不履行の抗弁を封じ、1722条の適用も否定しているが、その論理は明確ではなく、法技術的な正当化に成功しているとは言い難い。政策的な判断だとみるべきだろう。 また、上記各判決について検討する過程で、同様の事案において、ベルギー破毀院が、2023年5月26日(C.22.0296.N)と同年9月7日(C.22.0437.N)に、フランス破毀院とは異なる判断を示したことが判明した。そのため、両者を比較検討するべく、ベルギーの判例・学説の検討を開始した。 そして、2024年2月から3月にかけて、パリおよびブリュッセルで、資料調査および聴き取り調査を実施した。
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