研究課題/領域番号 |
22K01272
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
小笠原 奈菜 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (40507612)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 消費者保護 / 過失相殺 / 不当勧誘 / 説明義務違反 / 消費者契約 |
研究実績の概要 |
消費者契約において、事業者による不適切な勧誘により消費者が出費をし結果的に損失が発生した事案が裁判で争われた場合に、事業者に責任を負わせる判断がなされても、過失相殺がなされることが多い。すなわち、事業者は、不適切な勧誘により契約締結を成功させてしまえば、損害賠償責任を負う結果となったとしても、消費者が拠出した資金の一部を手元に留めることができる。このことは、不当勧誘の防止へのインセンティブが働かないということにもつながる。裁判所が不明確または不合理な理論構成により過度の過失相殺を行なっていることにより事業者のやり得を許してしまっているという問題については、1990年代から指摘されている。しかしながら、現在においてもこの傾向は続いている原因として理論構成が明確化されていないことが考えられる。したがって、本研究は、消費者契約において過失相殺を制限するための理論構成を提示することを目的とする。 2022年度は、これまでの研究成果から得られた分析視角に基づき、日本の従来の学説を調査、検討した。消費者契約の中でもとりわけ金融取引被害が生じた場合に過度の過失相殺が行なわれていることから、金融取引被害において過失相殺を制限する理論的根拠について裁判例及び学説を調査、検討した。成果を「国際取引法研究会」及び「消費者法研究会」で報告し、『山形大学法政論叢』76=77号に公表した(「金融取引被害における過失相殺の制限」)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金融取引被害という限定された領域ではあるが、日本法における裁判例、学説を調査・分析し、「国際取引法研究会」及び「消費者法研究会」で報告することができた。また、成果を『山形大学法政論叢』で公表することもできた。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、ドイツの学説及び裁判例を調査、検討する。ドイツでは、契約の目的物について不適切な説明がなされた結果、当事者が望まなかった契約が締結された場合の金銭調整として、説明義務違反を根拠として、反対給付の縮減(売買代金の減額など)という金銭調整が行われてきた。過失相殺(共働過失:ドイツ民法254条)については、日本法と比較的よく似た規定を有し、原則として、加害者の故意責任は過失相殺(共働過失)の主張を排除するというルールがかなり明確に形成されており、また、説明義務と関連付けたうえで制限について論じられている。さらに、ドイツ法の議論を日本法に取り入れるためには、実務上の問題の異同についても把握する必要があるため、日本法と同様に、裁判 例として現れない法律相談に関する情報を収集、分析をする。情報収集は勤務校の長期休暇中にドイツにて行なう。 2024年度は、ドイツ法の議論を基に、消費者契約における過失相殺の制限が日本法において可能か否かを検討し、論文執筆を行なう。論文は『山形大学法政論叢』『山形大学紀要(社会科学)』へ投稿する。さらに研究成果が関連分野の研究者において広く共有されるよう、「国際取引法研究会」「東北大学民法研究会」「消費者法判例研究会」にて報告を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は、コロナ禍を原因として延長申請をしていた別課題との双方を進めていたため、本課題の支出が予定していたよりも少なかった。次年度以降は本課題が中心となるため、予定通り執行できると考えられる。
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