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2022 年度 実施状況報告書

精神科病院における身体拘束と組織過失論

研究課題

研究課題/領域番号 22K01277
研究機関富山大学

研究代表者

橋口 賢一  富山大学, 学術研究部社会科学系, 教授 (40361943)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード身体的拘束 / 精神科病院 / 不法行為
研究実績の概要

本年度は,従来の身体的拘束の違法性が争点となった裁判例を,とりわけ「精神保健及び精神障害者福祉に関する法第37条第1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準」における対象患者に関する基準に注目して検討した。
「拘束開始の判断」については,下記の2点に纏められる。
第1に,3要件の解釈およびそれに該当しない例外の許容について。3要件の解釈は,「基本的な考え」に即してなされる傾向にある。また,「主として」という文言に鑑み,受け皿的な「ウ」に該当しない場合でも許容する余地をそれに「準じて」認めている。以上から,具体的にいかなる場合に許容されるかの判断にあっては,3要件を基本としつつも,医師の裁量から一定程度の例外が許容されていると言える。そうであれば,医師の裁量にも踏み込んだヨリ明確な理由が必要でなければならないが,十分な理由を示していない先例がある。
第2に,「身体的拘束以外によい代替方法がない場合」について。先例では,医師の裁量を広範に認め精神科病院の現状に配慮したものと,告示の理念を重視しなるべく限定的に補充的なものとして許容するものがある。身体的拘束が許容されうるのは「当該」病院にとって対応が困難な場合に限ってであり,その判断は現実的になすべきである。現状維持でも理念先行型でもなく,管理者の拘束を回避するための組織構築に関する義務に目を向ける必要があり,違法性が認められないと結論づけるには,負担等を要求してもそれが非現実的でないことを十分に示さなければならない。
「身体的拘束継続の判断」の検討は,先例の傾向として,告示における「一時的」や「できる限り」という文言があるものの,それらに該当しなければ直ちに解除を求めるものではなく,状況に応じた判断が必要とするものである。こうした判断は妥当とはいえ,当時の身体的拘束の平均日数のデータをしきりに強調して正当化するべきではない。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

現在に至るまで,わが国における裁判例の検討を行ってきたが,さらに下記の2点についての検討も要する。
1つは,新たな裁判例の検討である。具体的には,東京地裁令和3年6月24日判決およびその控訴審判決である東京高裁令和4年10月31日がそうである。両者は結論を異にしており,また共に「医師の裁量」を強調する理由付けに着目しており注目に値する。これらの判断が,従来の裁判例と比較していかなる特徴を有するのかを検討する必要がある。
2つは,精神保健福祉法の改正の検討である。改正では,「医療保護入院の見直し」や「虐待防止に向けた取り組み」もトピックとなっており,これらは,医療機関の組織編成について着目したものと言える。精神科病院における組織過失をテーマとする本研究を進めるにあたっては着目しておく必要がある。
こうした2点の新たな動きがあったものの,2023年度中にこれらの点にも目配せしたわが国における法状況を検討する論稿を公にするつもりで現在進めているところであることから,「おおむね順調に進展している。」の区分を選択した次第である。

今後の研究の推進方策

2023年度は,下記の2点を順番に進めていく予定である。
まず第1に,前年度に引き続き,わが国における法状況を検討する。研究計画書にて着目した裁判例をはじめ,それまでの裁判例および近時現れた裁判例をも網羅し,また精神保健福祉法の改正をもフォローしつつ引き続き検討を進め,最終的にわが国における法状況を網羅した研究成果を形にして公にしたい。
第2に,精神科病院における身体的拘束につき,ドイツの法状況の調査に着手する。まずは,研究計画書においても指摘した「2018年7月24日の連邦憲法裁判所判決」から着手し,それに関連する専門書や論文等を調査して読み込み,彼我の制度の相違をも念頭に置いて,解釈論・立法論の両面においてわが国への示唆を得ることとしたい。

次年度使用額が生じた理由

次年度使用額が生じた理由は,購入予定の書籍の出版が当初見込んでいた時期よりも遅れたからである。
2023年度は,これをもって,それ(わが国における関連文献)の購入に充てるつもりである。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2022

すべて 雑誌論文 (2件)

  • [雑誌論文] 診療ガイドラインの扱い2022

    • 著者名/発表者名
      橋口 賢一
    • 雑誌名

      別冊ジュリスト 医事法判例百選〔第3版〕

      巻: 258 ページ: 96-97

  • [雑誌論文] 慢性肝炎の再発と改正前民法724条後段の起算点2022

    • 著者名/発表者名
      橋口 賢一
    • 雑誌名

      民商法雑誌

      巻: 158巻3号 ページ: 647-660

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公開日: 2023-12-25  

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