研究課題/領域番号 |
22K01280
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
樋笠 知恵 信州大学, 医学部, 助教(特定雇用) (60923290)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | トリアージ / 自己決定権 / 人工呼吸器 / 緊急避難 / 患者の意思 / 治療中止 |
研究実績の概要 |
本研究では、患者の明示的な意思が確認できない場合には、1義務の衝突に基づいた正当化、2緊急避難による正当化、 患者の意思が明白で ある場合には、3治療中止による正当化、4ガイドラインによる正当化を試みる。以上の4つの理論構成について、本研究では、医療実務の現状を把握し、実態としてこれらが各事案において可能な立論であるかを検証し、 実務に即した理論構成およびフローチャートと提案書を作成する。それにより、患者の自己決定権に配慮した上で、患者の意思表示の有無及び 治療の緊急性などを考慮に入れた極めて実践的な理論の構築を試みる。本研究における理論化により、具体的にどのような場面のどのような判 断であれば医師が刑事責任を問われることがないのかを明らかにする。 計画は以下の通りである。4つの理論構成に関して、初年度は、【1】( 日本)文献・裁判例調査および【2】(ドイツ)文献・裁判例調査を行っている。 これに関して、2022年11月11日にドイツで、トリアージ法(Triage-Gesetz)が成立した。トリアージにおいて、「現在および短期間の生存確率」が判断基底におかれることとなり、ここで障害の有無が考慮されないことが明らかとなった。Beschluss vom 16. Dezember 2021 1 BvR 1541/20の連邦憲法裁判所の決定が本法律の草案に影響を大きく与えている。判文において立法府への要求「集中治療資源の分配において、障害を理由とする差別が十分に効果的に防止されることを保証せよ」がなされ、これに応じた法律ができあがっている。 法律の制定が非常に早期であったため、医療系の各団体がこれに応じてどのような対応を行うのか、また、これらが日本の医療実務・裁判実務に与える影響はあるのかを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、2022年に立法がなされたため、その立法の分析と、Beschluss vom 16. Dezember 2021 1 BvR 1541/20の連邦憲法裁判所の決定が同立法の草案に影響を大きく与えているため、判例の検討により多くの時間を割いている。
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今後の研究の推進方策 |
トリアージ法が依拠する憲法裁判所の判例は、ドイツ基本法の障害者差別に関する規定に依拠しており、平等権という位置付けは同様であるものの、例示列挙に「障害」とおいう文言を欠く我が国と人権とは根拠が若干異なる。それゆえ、人権に関する点も調査する。また、2020年以降に出されたドイツ集中治療・救急医学会(DIVI)、ドイツ呼吸器内科学会(DGP)、医学倫理アカデミー(AEM)、ドイツ緩和医学会(DGP)の指針を研究し、さらに、ドイツで問題となっている障害を理由としたトリアージについて検討する。【3】ドイツの「トリアージ」に関する実体的調査・分析および、【4】ドイツの医師会の現地調査・ヒアリングを行う。ヒアリングで は、個人情報を含まない形で、トリアージ・タッグの研修の有無・内容や倫理コンサルテーション・ 倫理委員会におけるトリアージの規定・ 手続きを調査する(2年目~3年目)。 さらに、【5】日本のトリアージ事案の調査、【6】日本の医学界・倫理コンサルテーション調査、【7】日本の医学界・トリアージ方針調査 も同様に行う(2年目~3年目)。 そのうえで、大学病院を始めとする医療関連機関に対するアンケート調査を通じて、トリアージ・治療中止の実務に関する(疾病を特定しな い)【8】日本の医学界の横断的分析を行う。これらの検討結果を踏まえ、4つの構成が十分に理論的で実践的であるかを精査し(【9】患者の自 己決定権と各正当化の相関性分析)、患者の自己決定権の実現を可能にする形での総合的理論化(【10】各正当化方法の要件化および総合的理 論化)を行う(4年目)。
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