研究課題/領域番号 |
22K01289
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
本山 雅弘 国士舘大学, 法学部, 教授 (70439272)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | パブリシティ権 / 表現の自由 / 利益衡量 / 規範序列論 / 翻案権 / 保護範囲 / 保護法益 / ドイツ法 |
研究実績の概要 |
「著作権研究」47号に「人格要素の財産価値とドイツ法の展開」を公表した(2022年4月30日発行)。同論文では、本研究課題と関係で、パブリシティ権とその対抗利益である表現の自由との利益衡量問題に関して、主としてドイツ法の判例および学説の包括的な把握・理解と、それを承けての我が国の解釈論上の課題への示唆とについて、具体的な考察を行った。ドイツ法には、パブリシティ権と表現の自由との利益衡量問題に関して、前者のパブリシティ権の憲法上の位置づけをめぐり議論があるが(規範序列論)、その議論の背景、具体的な内容、具体的な紛争解決への影響の概要を明らかにしたことにより、本課題研究の考察を今後展開していく上での基礎を得ることができた。また、本研究課題との関係で、パブリシティ権の性質論や先行する最高裁判例の解釈をめぐる論点を提供した東京高裁の裁判例(東京高決令和2・7・10判時2486号22頁)の研究を公表した(判例評論2517号154頁)。パブリシティ権と対抗利益との利益衡量に際しては、パブリシティ権の保護法益を構成し得る利益の特定ないし限界づけも問題となるところ、この裁判例研究を通じ、従来の我が国の裁判例に照らし、その保護法益の理解に関する解釈がいかに展開されてきたものと解すべきかの点で、一定の成果を得られた。また、本研究課題では著作権保護範囲とその対抗利益である表現の自由との衡量問題も扱おうとするところ、「最先端技術関連法研究」21号に「応用美術をめぐる著作権保護範囲と意匠権保護範囲の相違に関する覚書―応用美術の著作権保護範囲と意匠権保護範囲との調整弁としてのいわゆる狭小保護範囲論の検討として」を公表した(2023年2月)。著作権における複製権及び翻案権の保護範囲の特色を、意匠権保護範囲との比較により、明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度の研究実施計画は、主として、①ドイツにおける「人格権の財産価値的構成部分」法理の確定までに至る1950年代以降の判例解釈の展開を分析し、その判例展開と整合的に、その保護対象の理論的内容を明らかにするとともに、わが国のピンク・レディー事件最判が示したパブリシティ権の保護対象との異同を分析すること、②1999年ドイツ最高裁判例による「人格権の財産価値的構成部分」法理の確定以降に蓄積されたドイツのパブリシティ権判例を分析するとともに、憲法根拠の欠如に関する規範序列論およびその批判論を分析し、憲法根拠の獲得が憲法価値との衡量論や権利の性質論・処分論にいかなる 影響を与えるのかを分析することを内容としたが、これらの内容に対応する研究成果はその一部を得ることができた。もっとも、そうした研究成果をベースとして、わが国のパブリシティ権に関する衡量論や権利の性質論・処分論に関する具体的な解釈について、理論的な示唆を得る作業は、令和5年度に持ち越しとなった。以上のことから、全体的には、本研究は順調に進展しているものと解される。
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今後の研究の推進方策 |
まず、パブリシティ権と表現の自由との衡量問題に関しては、ドイツ法の議論に展開される、保護法益の類型化と衡量対象利益の類型化、またそれに応じた、利益衡量手法ないし基準の類型化論の所在とその内容について考察を進める。また、わが国のパブリシティ権に関する判例であるピンク・レディー事件最判に示された侵害判断の手法ないし基準を分析することにより、わが国における当該衡量問題に関する解釈論の到達状況の理解を進める。 また、著作権と表現の自由との衡量問題に関しては、主としてドイツ著作権法のパロディ許容規定の解釈をめぐる判例展開や学説論議を手掛かりに、当該衡量問題に関し、その衡量手法や衡量基準を検討するうえでいかなる分析視角が妥当であるかの点について、考察を進める。 いずれの研究推進の観点でも、ドイツ法の比較研究が重要になるものと考えられることから、ドイツの現地調査を目的に、海外調査の計画も積極的に組み込んで、本研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究課題に関連する文献の収集を予定していたが、今年度は既存の所有文献の調査や現に使用可能なデータベースの使用により、おおむね予定した研究を実施することが可能であったので、新たに購入すべき文献の選定を行わなかった。その結果、次年度使用額が生じた。また。コロナ感染症対策の影響を受け、海外調査等の実施にも、多少の制約が生じた。その結果、今年度の実支出額が抑えられることになった。
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