研究課題/領域番号 |
22K01290
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
織 朱實 上智大学, 地球環境学研究科, 教授 (70367267)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 世界自然遺産 / 順応的管理 / 住民参加 / 生物多様性 / SDGs |
研究実績の概要 |
遺産価値保全のためには、現在の法律、行政組織、予算体制で十分であるか?の問いに対して、小笠原、知床を中心にヒアリングを行っていった。特に、小笠原について複数の行政機関が役割分担して保全対策を進めているため、大型台風など緊急時の対応に取りこぼしはないか、また多くの研究者の研究が進められているにもかかわらず研究資料や標本を島に残すためのシステムがなく島に残るものがないのではないか、行政担当者が数年で異動してしまう中で、小笠原を拠点に活動する組織・人材が重要でないか等地域の課題をひろうことができた。2022年2月都立大学で開催された小笠原登録十周年学術会議のセッション2座長として「世界遺産価値保全に向けての地域連携のあり方―小笠原、奄美、知床をつなぐ―」というタイトルの下で、小笠原、奄美、知床から関係者を招聘し、それぞれの地域がどのように価値保全にむけての取組とかかわっているかをまとめた。各地の事例紹介を通じて、課題を共有するとともに、地域ごとに課題の対策の手法も共有することができた。たとえば、知床のブランディング化プロジェクトに見られるようにマーケティングを活用しながら地域を巻き込んでいく手法、奄美のように保全活動に直接関わらない企業も巻き込みながら地域意識を上げていく手法、小笠原のように研究者を巻き込みながら、NPO や住民が外来種対策に参加することで保全活動に直結する手法など、それぞれの地域の特徴を背景として、様々な課題についての手法を共有した。 11月には、利用調整地区制度を活用しながら観光業者NGO地域とともに保全と利用のバランスを図っていく知床の施策について、奄美宇検村職員とともに知床財団をはじめ関係者のヒアリングを行っていった。その中で自然遺産保全において、法律よりも自主的、自発的に参加してもらう仕組みづくりが、重要性を増してきていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画では、初年度は小笠原、知床を中心に課題抽出を行うことになっており、何度かの現地訪問により関係者ヒアリングは十分に進んだ。また、2月の小笠原登録十周年事業のシンポジウムの場で小笠原、奄美、知床の関係者の課題意識を共有することができたのは研究の進捗の途中まとめとしての意義が大きかった。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は、研究計画では、奄美、西表、やんばるへのヒアリングを中心に考えていく予定であったが、世界自然遺産の保全と利用計画において地球温暖化の影響をどのように取り込んでいくかも重要な要素であることが1年目で明らかになっていった。そこで2年目は、オーストラリアで世界自然遺産地域での温暖化の影響を住民にわかりやすく示すワークショップを実施しているJames Cook Universityの取組も調査を行い、そこで使われているThe Climate Vulnerability Index (CVI)手法が小笠原、奄美、知床でも有効かを検討していきたい。その後、まだ現地を訪問していない屋久島を3年目の検討に向けて、行政、NGOの取組を中心とした現地調査を行いたい。これらの2年目の新規プロジェクトと同時に1年目の奄美、小笠原、知床の調査をより精査するための研究も継続することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
1)次年度使用額が生じた理由 初年度は、奄美、小笠原、知床のヒアリング調査を行ったが、知床以外の地域については環境省予算での現地調査を実施した際に併せてヒアリングを行ったため予算を支出することがなかった。知床については、科研費予算を使用したものの、出張予定がぎりぎりまで定まらず、2023年2月の知床出張の旅費の清算処理が、2023年度以降となったため支出がゼロとなったものである。 2)使用計画について2022年度残額と、2023年度額を合わせた予算を、オーストラリア James Cook Universityがオーストラリアの世界自然遺産地域で実施していClimate Vulnerability Index (CVI)の現地調査研究者へのヒアリング、屋久島の現地調査に使用するものとしたい。
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