研究課題/領域番号 |
22K01311
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
宮杉 浩泰 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (30613450)
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研究分担者 |
小森 雄太 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (70584423)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 外務省情報部 / 外務省調査部第六課 / 情報局 / 中立国 / 在外公館 / ノンキャリア |
研究実績の概要 |
研究初年度である令和4年度は、基礎的な資史料の閲覧あるいは入手を試みた。本研究課題が対象とする大正末期から昭和戦前期の外務省外交史料館が所蔵する外務省記録については、その大部分が国立公文書館アジア歴史資料センターを通じてオンラインで閲覧できるため、同センターを利用した。 周知のように、外務省記録は戦災や終戦時の焼却処分によって失われた部分も多い。そこで、外務省から他の機関(陸軍、海軍)に配布された文書で外務省外交史料館が現在所蔵していない関連文書の探索を試みた。その一環として、史料調査会が旧蔵していた日本海軍の文書(事実上の公文書)を所蔵している文書館の一つである呉市海事歴史科学館を訪問し、日中戦争期の外交電報を見ることができた。しかし、これらが外務省外交史料館でも所蔵されているのかは、さらなる調査が必要である。 また、外務省の文書が個人文書、私文書に含まれていることもあるので、国立国会図書館憲政資料室で外交官旧蔵の文書の調査を行い、「来栖三郎関係文書」、「加瀬俊一関係文書」を閲覧し、満洲事変期や日中戦争期だけでなく、日米開戦以後に日本が行った対内、対外宣伝の重要性の認識を新たにした。 国立国会図書館憲政資料室では、公開直後の「坪島文雄関係文書」(坪島は昭和16年から20年まで昭和天皇の侍従武官)も閲覧した。特筆すべきは、坪島日記昭和20年2月19日粂に小野寺信駐スウェーデン公使館付陸軍武官からの報告が記載されていたことである。内容は、対独戦終了後にソ連は極東地域において航空基地を米国に貸与する旨を確約した、というものである。この小野寺電自体は海軍の史料にもあるが、これが宮中にも伝わっていたことを示す点で坪島日記は貴重である。より重要な点は、ソ連の対日参戦のヤルタ密約を入手し本国に送ったとされる小野寺であるが、それとは異なった意味合いの報告をしていたことをも表している点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度はインプットに集中し、アウトプットを余り出せなかった。これが、「やや遅れている」とした理由の一つである。論文化とまでは行かなくても、もう少し研究会あるいは学会で報告したかった憾みはある。とはいえ、史料収集に関してはそれなりに充実したものがあった。 また、昭和15年外務省情報部が内閣情報局に発展吸収された際、外務省は新たに情報蒐集を掌るセクションとして調査部第六課を設けた。その経緯については、厳密な注釈を付けない形でかつて一般向けの歴史雑誌に依頼原稿として執筆したことがあった。令和4年度は、その後の史料調査も踏まえて当該論考の発展改良版の執筆を企図したものの、それが実現できなかったことも「やや遅れている」とした一因である。しかし、史料収集に時間をかけた分、将来的には一定の水準以上の論文に仕上がる見込みである。 コロナ禍もあり海外での史料調査に行かなかったことも当初計画のスケジュールに遅延が発生した原因である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、予約なしで行くことが可能になった外務省外交史料館で閲覧する。戦前、戦中期の外務省文書は全てが国立公文書館アジア歴史資料センター上で閲覧できるわけではないからである。ネット上で閲覧できない史料群、特にK門とL門を実見するつもりである。とりわけ重要なのが、通常の「外務省記録」とは別に分類されている「来往電綴」である。これは、出先が本省に送った電報が在外公館別にファイリングされているものである。「来往電綴」は既に一部分が『日本外交文書』で活字化されているが、それに収録されていない箇所にも重要な史料があると考えられる。外交史料館はコロナ禍以前の2019年以来行っておらず、K門、L門、「来往電綴」等は以前にも部分的に閲覧したことはある。しかし、本研究課題を念頭に置いた上で改めて調査し直したい。 さらに、国立国会図書館憲政資料室での個人文書の調査を引き続き継続する。言うまでもなく、当該期は軍部が強い影響力を持っていた。そこで、外務省情報部が軍のカウンターパートである陸軍省新聞班(情報部、報道部)、海軍省軍事普及部等といかなる関係であったかも検討する。その為に、防衛省防衛研究所戦史研究センターでも史料調査を行う。 次に海外での史料調査、具体的には米国国立公文書館や英国国立公文書館での調査である。また、この種の公文書の類だけではなく、日本国内では入手あるいは閲覧しにくい1930年~1940年代に米国で発行、刊行されていた雑誌、新聞の入手を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外での史料調査が行うことができなかったことが、次年度使用が生じた主な理由である。なお、令和5年度は研究代表者、あるいは研究分担者が外国での史料調査または報告を行う予定である。 また、ウェブ上で閲覧できるデジタルアーカイヴが充実してきたことや、日本国内における文書館等において閲覧者自身で史料を撮影できるようになったことも、史料の複写代が掛からなくなった要因である。今後の複写代としては、①国会図書館憲政資料室での複写代、②閲覧者自身の手で史料の撮影ができるものの時間の制限等がある防衛省防衛研究所戦史研究センターにおける業者委託での複写代、以上の2点を中心に検討している。
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