研究課題/領域番号 |
22K01319
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
岡本 哲和 関西大学, 政策創造学部, 教授 (00268327)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ネット選挙 / 地方選挙 / 通常化 / 平準化 / 政治コミュニケーション / 政治情報 |
研究実績の概要 |
日本の地方選挙における候補者のインターネット利用状況を明らかにし、「通常化―平準化」が選挙ごとにどのように進行しているかに注目することによって、「通常化―平準化」の進行状況に影響を及ぼしている要因を明らかにすることが本研究の目的である。インターネットをめぐる政治学研究において、各国の選挙等において「通常化―平準化」がどれだけ進行しているかを検証することは、大きなテーマの1つである。しかしながら、どのような要因が通常化(あるいは平準化)の進行を促すかについてはほとんど研究されてこなかった。この問題に取り組むために、2022年度は主として(1)「通常化―平準化」の程度を測定するための指標の開発(2)その指標を用いた試行的な分析作業の2つの作業に取り組んだ。 本研究では「通常化―平準化」を連続量で表される「程度」の問題として捉えて、(a) 「通常化―平準化」を一次元の尺度として捉える「通常化―平準化指数」、(b)「通常化か平準化か」ではなく「どれだけ平準化が進行しているか」を図るための「水平的平準化指数」の2種類の指標を作成した。この点が、本研究の新規性の1つである。2021年衆議院選挙における候補者データを用いて289の小選挙区ごとに「通常化―平準化指数」および「水平的平準化指数」を算出した上で、両指数を従属変数とする回帰分析を行って選挙区ごとの通常化―平準化の程度に影響を及ぼす要因を検証した。その結果、有力候補者の数が多いほど、すなわち競争度の高い小選挙区ほど、平準化が進行していたことが示された。この結果は2022年日本政治学会研究大会で報告され、今後の研究につながる多くのコメントを参加者から得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における大きな課題の1つは、どのように「通常化―平準化」の程度を測定するための指標を開発するかであった。先行研究では、「通常化―平準化」を連続量として捉える考え方は示されてこなかったからである。この点について、研究代表者は「通常化―平準化」を一次元の尺度として捉える「通常化―平準化指数」、(b)「通常化か平準化か」ではなく「どれだけ平準化が進行しているか」を図るための「水平的平準化指数」の2種類の指標を作成することができた。指標自体についてはまだ改善の余地があること、また各候補者のインターネット利用の類似度を測定することによって平準化を操作化する別の可能性もあることなどから、新たな指標の開発という目標が完全に達成できたわけではないが、おおむね順調に進行していると言える。 基本的な分析データとなる地方選挙データについては、2022年に実施された都道府県・市町村議会議員選挙における候補者のインターネット利用状況の調査を実施した。具体的には、2022年5月から12月までに実施された132の県市町村議会議員選挙における各候補者がどのように選挙期間中にインターネットを利用していたかどうかについて、ウエブサイト、ツイッター、Facebook、LINE、Instagram、YouTubeの6つのツールに焦点をあてて調査した。合わせて、候補者の得票数、年齢、性別、会派、地位、経歴についても選挙関連サイト等を参照して入力を完了している。これらのデータを用いた本格的な分析は2023年度以降となるが、そのための準備状況は整えられた。この点についても、本研究はおおむね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度以降も、引き続き(1)「通常化―平準化」の程度を測定するための指標の改良とあらたな開発、(2)2023年以降に実施された都道府県・市町村議会議員選挙における候補者のインターネット利用状況の調査、の2つの作業を進めつつ、調査結果の分析を進めていく予定である。(1)「通常化―平準化」の程度を測定するための指標の改良とあらたな開発については、各候補者のインターネット利用の類似度をユークリッド距離やハミング距離等を用いて算出して、それを基に選挙区単位でのインターネット利用の類似度を測定して通常化-平準化の程度を示す指標を作成することを予定している。それを用いた分析結果と、すでに作成した「通常化―平準化指数」および「水平的平準化指数」を用いた分析結果とを比較していくことも可能となる。また、選挙区レベルでのデータをも用いることを予定している本研究では、候補者レベルでの分析ほど多くのケース数が確保できないことも起こり得る。そのため、分析手法として質的分析手法の1つであり、社会科学研究でも用いられることが多い質的比較分析(Qualitative Comparative Method)の使用を今後は予定している。その手法についての十分な理解と習得についても今後努める。 (2)2023年以降に実施された都道府県・市町村議会議員選挙における候補者のインターネット利用状況の調査に関しては、2023年度は4月に統一地方選挙が実施される。きわめて多くの地方自治体で議会議員選挙が実施されるために、2023年度は市町村議会議員選挙を調査対象に含めると作業負担が極めて大きくなる。それゆえ、道府県議会議員選挙を対象として調査を行う。作業はすでに進行中である。必要に応じて、それ以降に実施される地方選挙を対象とする調査も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由の第1は以下のとおりである。まず、本年度は開始年度であり、さらにまったく新たなテーマに取り組んでいるため、参考とするような先行研究は乏しい。それゆえ、調査と作業自体の組み立て作業に予想していた以上に時間が取られ、調査と作業の標準化とマニュアル化がやや遅れることになった。このような理由により、2022年度においては調査とデータ構築に係る作業の多くを自分で行ったため、人件費の支出が当初よりも少なくなった。これについて、地方選挙を対象とする調査および作業についての標準化とマニュアル化がほぼ完成したため、次年度以降においてはアルバイトにも多くの作業を分担してもらうことが可能となった。次年度使用額は、この人件費にも使用される。 第2の理由は、2022年度の後半に衆議院が解散され、衆議院選挙が行われる可能性が一時期高いと思われたことである。本研究課題は主として地方選挙を研究の対象としているが、「通常化―平準化」の検証という点で、国政選挙の候補者によるインターネット利用も分析対象となる。しかし、結果的に衆議院が解散されなかったことによって次年度使用額が生じた。次年度も衆議院解散を見据えながら研究を進めるが、2023年度は地方選挙が多いこともあり、解散がなかった場合でも地方選挙を対象とする調査(有権者調査を含む)に次年度使用額を充当する。
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