研究課題/領域番号 |
22K01330
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
馬原 潤二 三重大学, 教育学部, 教授 (40399051)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 歴史認識 / 国民意識 |
研究実績の概要 |
本研究課題は現代西欧軍事博物館の担う国民統合機能の理論的特徴を明らかにしつつ、西欧国家のうちイギリス、ドイツ、オーストリアの事例を比較考量しながら、その実相に迫ろうとするところにある。令和4年度はそのための予備作業として、政治学をはじめ歴史学、博物館学、軍事史学などの資料を幅広く収集して分析する作業をとおして、現代西欧軍事博物館を支えているロジックを解明する作業を行った。そのうえで、かかるロジックを反映した(反映していない)具体的な事例として、ウィーンにあるオーストリア軍事史博物館に着目し、同博物館に赴いて取材及び資料収集を実施するとともに、軍事博物館から読み取られうる「国家の自画像」(見せたい国家像)と「国民の肖像」(望ましい国民像)のありようについて考察した。その結果、今日の国民意識形成をはかるうえでも、第二次世界大戦の歴史認識が今もって非常に大きな影響を及ぼしていることが明らかになった。第二次世界大戦の被害者にして加害者であるオーストリアの場合、そうした微妙な「立ち位置」のゆえに、この戦争の記憶は軍事博物館の描く歴史物語においては実に巧妙にはぐらかされているのである。直近の戦争の記憶が国民意識形成のベースとなるかわりに、この博物館では現オーストリア国家が否定したはずのハープスブルク家のオーストリアの郷愁に訴えかける展示がその役割を担っており、ヨーロッパにおける歴史認識の複雑さを端的に表現している。こうしたケースは現代史に暗い陰を持つその他の国々(スペインなど)にも予想される事態であり、国民意識のあり方のひとつのマスターピースたりうるものとして非常に興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、現代欧州軍事博物館の展示思想を支える基本的な思潮について確認する作業を行うという当初の計画に加え、現地出張を実施するなどをとおして、主としてドイツおよびオーストリアの軍事博物館の現況を確認するなどの取材活動を実施することができた。そのうえで、オーストリアの事例についての研究を中間報告というかたちでまとめることができた。以上から、研究活動は当初の研究計画から遅滞するところなく、全体として順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、以上の研究成果を踏まえ、さらにドイツ(ドイツ連邦軍軍事歴史博物館)及びイギリス(国立陸軍博物館)への取材活動のもとに、これらの国々における軍事博物館の国民形成機能の事例を考察する。また、オーストリアに関する考察から、スペインの軍事博物館の事例についても調査することにする。
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