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2022 年度 実施状況報告書

米中対立、北朝鮮核危機の中での日韓外交構想の相剋をめぐる研究

研究課題

研究課題/領域番号 22K01354
研究機関東京大学

研究代表者

木宮 正史  東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30221922)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード尹錫悦政権 / 韓国版インド太平洋戦略 / 大胆な構想 / 日韓関係正常化 / ワシントン宣言 / 米韓同盟70周年 / 拡大核抑止 / 核共有
研究実績の概要

2022年度は、5月に韓国において尹錫悦保守政権が成立、それまでの文在寅進歩政権の外交と異なる大きな変化が韓国外交に見られた。本研究では、まず、こうした韓国外交の同時代的な変化を観察し、それがなぜ生じたのか、さらに、その結果、対北朝鮮関係、対米関係、対日関係、対中関係にどのような変化が帰結されたのかを考察した。
対北朝鮮関係に関して「自由・平和・繁栄の韓半島」という政策構想が発表され、その一環として、北朝鮮の核ミサイル開発に対応した抑止を強化することを基本としつつも、北朝鮮が非核化に踏み込んだ場合には、北朝鮮に対する経済協力のみならず、対米交渉の仲介役も担うという「大胆な構想」も発表された。抑止を基本としつつ関与の可能性も留保した政策であった。
対米関係に関しては、抑止に軸を置く対北朝鮮政策への転換を支えるためにも、米国が提供する拡大核抑止の信頼性を高めるため、尹大統領の訪米時にワシントン宣言を発表した。韓国では、その信頼性への疑念が日本に比べて高く、独自の核武装論への賛成論も6~7割を推移する状況であり、こうした国内世論を背景とした対米交渉の帰結でもあった。
対中関係に関しては、文政権の米中間における「戦略的曖昧性」を堅持するという政策を事実上放棄し、「韓国版インド太平洋戦略」を採択し、日米韓の安保協力を軸として中国に対応するという政策枠組みを共有することになった。
そして、対日関係に関しても、文政権下において、元徴用工問題をめぐる韓国の司法判断への対応をめぐって緊張が高まっていたのに対して、尹政権は、日本企業の賠償債務を韓国政府傘下の財団が債務引受によって履行する妥協案を提示することで、日韓首脳の相互訪問が、3月、5月と実現され、政府間の外交関係は完全に正常化された。但し、この解法に関しては、韓国国内では日本に対する一方的な譲歩だとして、批判も根強い。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2023年1月に約3年ぶりに訪韓する機会を持った。これは、日韓協力委員会という組織の一員としての訪韓であったが、この機会を利用して、韓国の政界関係者、オピニオンリーダーなどとの話し合いを通して、尹政権による外交構想と文政権による外交構想との間の連続性と乖離に関して調査する機会を持つことができた。但し、韓国外交史料館などの調査に関しては、コロナ禍の影響などもあり、2023年度の8月に実施することにした。
その他、2022年度は数多くのオンライン会議を通して、韓国の研究者との間で、尹政権による外交が韓国国内においてどのように評価されているのかについて、肉声を通して調査することもできた。一方で、対北朝鮮政策や対中政策に関しては、文政権の外交が必ずしも成果を収めなかったという評価が支配的であり、尹政権の外交政策の変化を肯定的に評価することが多いことがわかった。
しかし、対日政策に関しては、事前の国内におけるコンセンサスの形成が十分に行われなかったということもあり、依然としてかなりの批判が残っており、政府間はともかく、国民間において、日韓協力関係を推進する力はまだ不足していることがわかった。
こうした同時代的な外交をめぐる日韓関係を、さらに、マクロな歴史的なコンテクストの中に位置づける知的作業の一環として、グローバルヒストリーの中で日韓関係を位置づける講演を九州大学にて行ったことは、本研究をさらに発展させるために大いに役立つものであった。

今後の研究の推進方策

2023年度は、韓国外交の変化に伴って、日米韓の安保協力体制がより一層堅固なものになることが予想される。しかし、それは、短期的には北朝鮮との軍事的緊張関係が高まることにもつながり、さらに、米中間の緊張関係も高まり、その中で、日韓の外交の選択に困難がもたらされることも意味する。まずは、こうした同時代的な国際関係の中で、日米韓、中ロ朝の各国の外交がどのように展開されるのかを綿密に観察し、分析するという知的作業を推進する。
次に、こうした同時代的な現状分析を、主として1945年以後、さらには、19世紀末以降の、日韓の外交構想の相克という歴史的なコンテクストの中に位置づけるという知的作業に取り組む。
第一に、ここ3~4年に公開された、1990年前後の韓国外交文書に関する調査作業を実施する。同時期は、それまで基本的に冷戦体制に制約された韓国外交の空間が飛躍的に拡大する時期であり、新たな知見の獲得が期待される。さらに、同時期は、日韓の外交的協調が最も進んだ時期の一つであり、脱冷戦に向けた日韓外交の協力がどのように推進されたのかに関しても、一次史料を通して明らかにする。
第二に、日本外交、韓国外交に関する数多くの先行研究を、本研究が焦点を当てる外交構想という観点から再解釈することを行う。日本外交、韓国外交に関しては、数多くの研究が蓄積されているが、日韓の外交を比較するという知的作業は十分に行われてこなかった。それは、少なくとも1980年代までは、日韓が種々の側面で非対称の関係であったことに起因する。しかし、非対称であるから比較できないということではない。特に、日韓関係が非対称から対称へと変容しつつある現状であるからこそ、そして、それと関連して、日韓の外交構想が乖離から接近へと変容しつつある現状であるからこそ、日韓外交を比較の観点から再検討することは学問的にも重要な意味がある。

次年度使用額が生じた理由

2022年度は、コロナ禍がまだ収まりきらない状況で、自由に外国出張ができない状況であったために、当該年度に予定した外国出張の旅費を使用できなかった。2023年度に関しては、コロナ禍も収まって、比較的自由に外国出張ができる状況になったために、外国出張の旅費を次年度に使用する予定である。

  • 研究成果

    (16件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (4件) (うちオープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 5件、 招待講演 8件) 図書 (3件)

  • [雑誌論文] 韓日関係の対称性と相互協力方案2023

    • 著者名/発表者名
      木宮正史
    • 雑誌名

      JPI Peace Net(済州平和研究院)

      巻: 2023-3 ページ: 1,10

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 尹大統領誕生が示す日韓関係改善の糸口2022

    • 著者名/発表者名
      木宮正史
    • 雑誌名

      月刊公明

      巻: 198 ページ: 36,41

  • [雑誌論文] バイデン大統領の訪韓・訪日から見た国際情勢と、その中での韓国と日本(韓国語)2022

    • 著者名/発表者名
      木宮正史
    • 雑誌名

      JPI Peace Net(済州平和研究院)

      巻: 2022-9 ページ: 1,9

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] The Political Dynamism of South Korea-Japan Relations and Its Potentialities for Academic Collaboration2022

    • 著者名/発表者名
      KIMIYA Tadashi
    • 雑誌名

      TRENDS IN THE SCIENCES

      巻: 27 ページ: 8_19~8_22

    • DOI

      10.5363/tits.27.8_19

    • オープンアクセス
  • [学会発表] 対称的・相互競争関係下のSNU/UTokyo学術協力の可能性2023

    • 著者名/発表者名
      木宮正史
    • 学会等名
      第5回東京大学/ソウル大学フォーラム
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 激動する国際政治の中での韓国・朝鮮半島の軌跡と展望:冷戦・分断下の体制劣勢・開発独裁から 体制優位・先進民主主義国へ2023

    • 著者名/発表者名
      木宮正史
    • 学会等名
      九州大学韓国研究センター・九州韓国研究者フォーラム主催「『世界史』の中の韓国 その構造変動に関する総合的研究』
    • 招待講演
  • [学会発表] 書評会木宮正史『日韓関係史』2023

    • 著者名/発表者名
      木宮正史
    • 学会等名
      東京大学韓国学研究センター
  • [学会発表] 日韓関係のダイナミズムと学術協力の限界・可能性2022

    • 著者名/発表者名
      木宮正史
    • 学会等名
      日韓国際シンポジウム:2022年日韓新政権以来の日米韓協力方策と言・産・官・学の課題
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 対称相互競争的関係に変容する日本と韓国:北朝鮮核危機、米中対立、ロシアのウクライナ侵攻などの激動期国際関係にどのように対応するのか?(韓国語)2022

    • 著者名/発表者名
      木宮正史
    • 学会等名
      韓国現代日本学会主催『国際情勢と韓日関係』
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 非対称的相互補完的関係から対称的相互競争的関係に変容する日韓関係:歴史問題、北朝鮮核危機、米中対立に対してどのように対応するべきか:『日韓関係史』をめぐって)(韓国語)2022

    • 著者名/発表者名
      木宮正史
    • 学会等名
      韓国高麗大学アジア問題研究所主催研究会
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 韓国の第20代大統領選挙、尹錫悦新政権と韓国外交、そして日韓関係2022

    • 著者名/発表者名
      木宮正史
    • 学会等名
      東京フォーラム主催『第200回東京フォーラム記念大会』
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 韓国新政権による対北朝鮮関係の今後の課題と展望2022

    • 著者名/発表者名
      木宮正史
    • 学会等名
      国際情勢研究所研究会
    • 招待講演
  • [学会発表] 対称的・相互競争的関係に変容する日韓:激動する国際関係にどのように対応するのか?2022

    • 著者名/発表者名
      木宮正史
    • 学会等名
      横浜市立大学地域貢献センター・駐横浜大韓民国総領事館主催『日韓の課題解決に向けたシンポジウム「経済・政治外交・文化面における日韓関係のあり方」』
    • 招待講演
  • [図書] 和解のための新たな歴史学2022

    • 著者名/発表者名
      劉傑、木宮正史ほか全13名
    • 総ページ数
      388
    • 出版者
      明石書店
    • ISBN
      9784750354095
  • [図書] 安倍時代の日本の政治と外交(韓国語)2022

    • 著者名/発表者名
      南基正、木宮正史ほか全7名
    • 総ページ数
      300
    • 出版者
      博文社
    • ISBN
      9791192365077
  • [図書] 日韓関係のあるべき姿2022

    • 著者名/発表者名
      鞠重鎬、木宮正史ほか全8名
    • 総ページ数
      224
    • 出版者
      明石書店
    • ISBN
      9784750354521

URL: 

公開日: 2023-12-25  

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