研究課題/領域番号 |
22K01370
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
遠藤 貢 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (70251311)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アフリカの角 / 崩壊国家 / 国際秩序 |
研究実績の概要 |
本研究は、申請者がこれまで実施してきた「崩壊国家」ソマリアを中心とした北東アフリカ地域の国内政治と国際関係の近年加速化する変容を、広域の「アフリカの角」(Greater Horn of Africa)における国際関係の再編過程としてとらえ、その地域秩序の動態を検討することに焦点を当てるものである。 初年度は、「薄い覇権」として特徴付けられる地域としての「アフリカの角」を設定し、過去30年間の時間軸に沿う形でのこの地域をめぐる関係性のダイナミズムとその変遷を俯瞰した。ここでは「アフリカの角」地域の域内に関わる動きに加え、紅海を挟んだ湾岸諸国や中東国際関係と連動する動き、さらには、中国、アメリカといった「グローバル・パワー」との関係などについて検討を行う作業を行った。「アフリカの角」という地域は、グローバルなレベルにおける国際秩序を考えた場合に、覇権が十分には浸透しておらず、それ故に自由主義的な国際秩序の実現がより難しいと特徴付けられているグローバルな文脈におけるインド・太平洋という地域枠組の一部としてとらえる視座を参照しながら、再検討を試みた。その際、基本的には「冷戦後」とされる約30年にわたる時間軸に沿って検討を行った。 こうした検討を通じ、「アフリカの角」地域の安定化に資する何らかの対応可能性があるとすれば、「薄い覇権」に代わるアメリカや中国も含む多国間の何らかの共同枠組みの構築ということになる可能性が提示された。逆に言えば、「アフリカの角」の不安定化の継続は、国際秩序そのものの不安定化を暗に映し出す世界の鏡にもなるという含意を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績にも記したように、初年度は「薄い覇権」として特徴付けられる地域としての「アフリカの角」地域を位置づけることに基づいて、不安定性を大きな特徴としているこの地域での変容過程を読み解く作業を継続している。この地域は、従来から民族関係をめぐり、極めて特徴的な階層的な権力関係の存在を示してきたが、この階層化とその変容にも連動する重層的な国際関係が現在展開していることをあらためて確認している。 なお、「薄い覇権」概念は「異質で、相対的に自律的な構成要素からなる覇権的な国際システムであり、これらの構成要素が密にまたしばしば協調的に相互作用し合うものの、その規範的な選好が一点に収束することはなく、支配的な権力の選好を反映することもない。そして、この支配的な権力は、このシステム(あるいはその一部)を緩やかに構造化するにとどまり、何らかの公共財を提供する役割を担う」という定義を与えることができる。 これまでも、「アフリカの角」は、流動化する中東とも深く関連する様相を示しており、トランス紅海地域安全保障複合体(TRS-RSC)という認識枠組などを検討してきたが、研究実績にも示したように、より広域の中東RSC(Middle East RSC)や、グローバルな文脈の中に位置づけながら、その変容過程の検討が必要とされるという方向に、研究は新たな展開を示し始めている。 こうした点に鑑みると、当初想定していた以上に、「アフリカの角」という地域が、グローバルな国際秩序の変化を映し出す視点が求められるようになっているということでもあり、こうした視座の獲得は、本研究の進展を示すものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
概ね順調に研究は進んでいることから、様々な現地での調査レポートなどを参照する作業などを通じて、「アフリカの角」地域に生じているダイナミズムの評価を行っている予定である。対象地域は引き続き、紛争などの不安定要因が絶えないこともあり、現地での調査実施は難しいところが残ることから、既知の研究者などとの連絡やオンラインでの聞き取りなどを駆使する形で、研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で、予定していた出張などの実施がかなわなかった。今後、状況を見ながら、国内外の必要な出張の実施を検討する。
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