研究課題/領域番号 |
22K01372
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
福富 満久 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (90636557)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 戦後賠償 / 経済制裁 / イラク侵攻 / アフガニスタン侵攻 / 復興支援 / 軍事介入 / 大量破壊兵器 |
研究実績の概要 |
本研究は、1991年の湾岸戦争以後のイラクが受けた経済制裁の余波、2001年アフガニスタン侵攻、2003年の米英によるイラク侵攻以降の経済支援などの影響を明らかにすることを目的としている。 2016年7月6日に発表された、イラク戦争を検証する英調査委員会(「チルコット委員会」)の報告書は、ブレア政権が不完全な諜報情報を基にイラクに対し武力侵攻に踏み切ったこと、戦後の復興計画に関して不十分であったことを指摘し、「大義なき戦争」を主導したトニー・ブレア(Tony Blair)元英首相の政治判断を厳しく非難したが、まずは戦争の全貌を知るために、同報告書を英国政府から収集して中身の精査にあたった。 公表まで実に7年以上の年月をかけた同報告書は、延べ5000ページを超える計12巻に及ぶ膨大な資料であり、調査資料の中には、「September Dossier(以下、9月文書と記す)」としても知られる資料も含まれているため極めて重要な資料である。「9月文書」は、2002年9月24日に議会がブレア首相のプレゼンテーションを聞くための緊急会合のために召集された際に発表された文書で、イラクが大量破壊兵器(Weapons of Mass Destruction/WMD)を保有し、かつ45分で化学兵器を弾頭に装てんすることができると主張して2003年3月のイラク侵攻の基礎になったとされる有名な政府見解である。 2003年3月の侵入後、化学兵器や生物兵器など、イラクが大量破壊兵器を所有していたとされる証拠は発見されず、以来、情報当局は、情報を正確に報告していたのか、あるいは意図的にイラクのWMD機能と脅威に関してより強い印象を与えるために欺いたのかについて、現在でも論争となっているが、こうした点について理解を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度においては、イラクで何が行われたのかを英国側の前述したチルコット調査報告書から読み解くことで、客観的に、米国視点からではない戦争の理由、行程、理念、戦略、政府間交渉の結果などの理解を進めてきた。 米国中心史観による先行研究から距離を置き、米国を側面支援してきた英国のイラク戦争への態度を理解することで、同盟国の「戦争の大義」とは何だったのか、英国がどのように旧支配地域であるイラクや中東を見ていたのか、自らの利益を追求しようとしていたのかについても改めて知ることができ、有意義な研究ができている。 また現在、実証研究を進める上で計量分析に必須である統計ソフトRの理解を進めており、その使い方の習熟度も上がっており、その点も順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を通じて、米国と英国の関係を知ることもできるだろう。この作業を通じて今もなお混乱を極めるイラクやシリアなど周辺国の政情不安の理解の一助につながることが筆者の最大の願いである。そのため2023年度は、上記の資料の理解を進めていくことは勿論、イラクおよびアフガニスタンの時系列での経済・社会動向を知ることができるデータなどの収集に努めたい。またイラクとアフガニスタンのみに焦点を当てるだけでなく中東全域のデータを集めることで、戦争被害の実態を知ることができるとも考えており、中東全域の経済・社会データなども米・デューク大International Crisis Behaviorインデックスや、米・ハーバード大のInterstate War Battle Datasetなどを駆使してデータ収集を行いたい。
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