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2022 年度 実施状況報告書

カルテル抑止的な市場構造の特徴付けについての理論的研究

研究課題

研究課題/領域番号 22K01400
研究機関京都大学

研究代表者

関口 格  京都大学, 経済研究所, 教授 (20314461)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2026-03-31
キーワード繰り返しゲーム / ゲーム理論 / 多市場接触 / フォーク定理 / 不完全情報 / オークション / 即決価格 / 価値財
研究実績の概要

繰り返しゲームの理論の精緻化を通じてカルテル均衡の必要十分条件を明確化し、カルテル抑止的な市場構造を明らかにして競争政策形成に貢献するという本研究の目的に沿って、以下のような研究成果を得た。
1.寡占企業はしばしば、複数の市場で同時に操業する多市場接触の状態にあり、よって多市場接触がそれ自体カルテル促進的かどうかという産業組織論の重要論点は、本研究でも枢要なトピックである。そこで多市場接触のモデルとして、複数の不完全公的観測囚人のジレンマを同時に繰り返しプレーする構造をしたモデルの分析を行い、囚人のジレンマ数が1つ増えたときの最も協調的な均衡利得への影響について、詳細に評価してカルテル成否への含意を探った。また研究成果を、ヨーロッパで最高レベルの査読付き国際学会で報告した。
2.研究代表者自身がこれまで推進してきた観測オプションのある繰り返しゲームの分析を、定番的な自動完全観測下ではフォーク定理が成立しない無限回繰り返しゲームのクラスに拡張した。オプション観測下でのみ成立する均衡によるフォーク定理の成立条件を示す研究を、国内学会と国際学会で報告した。
3.入札談合は、抑止したいカルテルの一つである。オークションのフォーマットはカルテル均衡の成否を左右するが、2位価格系のオークションゲームでは1回限りのゲームでも結託的な均衡の可能性があり、よって均衡の構造の理解が必須になる。即決価格を含んだ2位価格オークションゲームについてこの点を分析した研究を、国内の学会で報告した。
4.ベルトラン競争を行う寡占企業に供給制約があると、需要量が供給能力を上回るときに誰が買えるかを定める割当ルールが、カルテルの可否を左右することが知られている。最近の研究が提唱する販売量最大化ルールを主に分析し、その派生的研究として、マスグレイヴによる価値財の販売における同ルールの経済学的意義を明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

結託的あるいは協調的な繰り返しゲーム均衡の必要十分条件という論点を軸に、多様な研究成果を積み上げている。特に、不完全公的観測下での多市場接触のカルテル促進効果に関する研究は、接触市場数の増加とカルテルの関係をかなり精密に導き、多市場接触がカルテルを促進する強い効果を持つことを示しており、理論面と応用面の双方でインパクトの高い研究となっている。また、観測オプションのある無限回繰り返しゲームのフォーク定理に関する研究は、経済学分野で最大規模の国際学会の査読付き部会で報告が採択になるなど、よい評価を得ている。更に、入札談合への応用を見据えた即決価格付き2位価格オークションゲームの分析や、割当ルールの重要性を念頭した価値財の販売問題の研究など、当初着想していなかったトピックにも取り組み、研究プログラムの多面的な展開にも成功している。
また、多くの学会がオンライン開催であった時期に、旅費を要さず参加できるという側面を利して、研究発表を多数行うことができ、発信面で計画以上の成果を得られたことも重要だと考えている。以上の進捗状況を総合的に判断して、本研究は当初の計画以上に進展したと判断したい。

今後の研究の推進方策

上述の通り、各研究プロジェクトについては一定の進展が見られているが、学術論文として完成させて査読付き学術雑誌での掲載を目指すには、以下の課題が残っていると判断しており、今後検討を行う。
1.多市場接触のカルテル促進効果についての研究では、任意の割引因子下での最も協調的な均衡利得の特徴付けがいまだ不十分であり、カルテル成立の必要十分条件の導出を掲げる本研究課題の趣旨に照らしても、この論点を決着させることが特に重要である。
2.観測オプションのある無限回繰り返しゲームでのフォーク定理の成立条件について、成立の必要十分条件には遠い感があり、既に一定の学術的意義は有しているものの、引き続き検討する価値が認められる。
3.即決価格を含んだ2位価格オークションゲームの研究については、均衡存在の必要十分条件について一定の成果が得られているものの、数学的に難渋な部分を残す表現となっており、応用上はもう少し洗練された表現を模索する余地がある。

次年度使用額が生じた理由

(理由)
令和4年度は感染症問題の影響がなお残り、当初計画していた海外共同研究者との長期研究打ち合わせや、内外の学会報告など、旅費を必要とする活動について、中止したり他経費の充当で賄えたりすることとなった。また、論文作成手伝いなどのために計画した大学院生の雇用については、所属機関のリサーチアシスタント経費を充当できた。これらの事情により、次年度使用額が発生した。
(使用計画)
対面による研究打ち合わせや学会報告等は、今後は特に困難がないと予想されるため、昨年度分も含めて積極的に実施する。大学院生のリサーチアシスタントとしての雇用だけでなく、博士号を取得する若手研究者の科研費研究員としての雇用も計画する。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)

  • [国際共同研究] Cardiff Metropolitan University(英国)

    • 国名
      英国
    • 外国機関名
      Cardiff Metropolitan University
  • [国際共同研究] Hubei Business College(中国)

    • 国名
      中国
    • 外国機関名
      Hubei Business College
  • [雑誌論文] ミクロ経済学の手法による教育経済学へのアプローチ2023

    • 著者名/発表者名
      石井 良輔, 野津 隆臣, 関口 格
    • 雑誌名

      『教育経済学研究』

      巻: 3 ページ: 41-51

    • DOI

      10.50946/roee.3.0_41

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Multimarket Contact under Imperfect Observability and Impatience2022

    • 著者名/発表者名
      Tadashi Sekiguchi
    • 学会等名
      Royal Economic Society Annual Conference 2022
    • 国際学会
  • [学会発表] A Folk Theorem for Infinitely Repeated Games with Equivalent Payoffs under Optional Monitoring2022

    • 著者名/発表者名
      Tadashi Sekiguchi
    • 学会等名
      2022 Asian Meeting of the Econometric Society in East and South-East Asia
    • 国際学会
  • [学会発表] A Folk Theorem for Infinitely Repeated Games with Equivalent Payoffs under Optional Monitoring2022

    • 著者名/発表者名
      関口 格
    • 学会等名
      日本経済学会2022年度春季大会
  • [学会発表] Second-Price Auctions with a Buy Price: A Full Characterization for Equilibrium Existence2022

    • 著者名/発表者名
      関口 格
    • 学会等名
      2022年度日本応用経済学会春季大会

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公開日: 2023-12-25  

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