研究実績の概要 |
本研究の目的の第一は、統計的極値理論を利用した金融リスク管理の方法としてGARCH-UGH法を提案することにあったが、その内容が研究初年度の令和4年度に査読付き英文学術誌Quantitative Financeに掲載された。論文では、4種類の金融時系列に対して、GARCH-EVT, GARCH-UGH, GARCHなしのUGHの3つの方法を、信頼水準(3通り)と推定に使う順序統計量の割合(5通り)を変えながら、1日先のバリュー・アット・リスク(VaR)予測値の精度を比較検討した。経験超過数の観点からは、全60ケース中47ケースでGARCH-UGHが最も優れており、経験超過率の適合度検定をパスしないのは、GARCH-EVTで6ケース、GARCH-UGHは2ケースだけだった。 目的の第二はリスク管理手法の対比較であるが、今年度はリスク尺度を期待ショートフォール(Expected Shortfall, ES)に取った研究を行った。対比較型バックテストの前に、適合度を見るタイプのresidual exceedance法、conditional calibration法、ES回帰法に基づき数値実験・実証分析を行った。これらは個々のESの推定が妥当か否かを検定できるが優劣の比較はできないので、引き続きDiebold-Mariano検定による対比較を行った。結果は現在取りまとめ中である。 また、狭義の金融リスク管理からは少し距離のある問題だが、財務ビッグデータに対して誤差分布に歪対称正規分布やt分布を仮定したコブダグラス型生産関数で売上高をモデリングする研究も行った。全要素生産性の推定値に分析期間の業種ごとの経済状況が反映されていることが判明し、コロナ禍2年目の業種リスクに関する含意が得られた。結果は査読付き英文学術誌Symmetry(オープンアクセス誌)に公表した。
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