研究課題/領域番号 |
22K01444
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
行武 憲史 日本大学, 経済学部, 教授 (80804690)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 災害の損失評価 / ケイパビリティ・アプローチ / 均衡ソーティングモデル / 福島原発事故 / 被災者の幸福の回復 |
研究実績の概要 |
災害からの復興とは、最終的には個々の被災者の幸福(Wellbeing)の回復を目的とするものと考えられる。そのためには幸福の損失の正確な評価が重要である。本研究は、東日本大震災・福島第一原子力発電所事故に焦点を当て、災害による損失を多角的に計測することを目的としている。 本研究の第1の目的は放射能汚染および除染の影響について、均衡ソーティングモデルにより異質性を考慮した損失を計測することである。22年度調査では、震災や原発事故の影響だけでなく震災・事故から10年余が経過し除染や復興事業の進行の影響についても検証するため、2020年度国勢調査データを追加した分析への拡張準備を行う。具体的には2020年度国勢調査の整備、各種復興政策の整理、空間線量のデータの整備を行った。 第2の目的は、ケイパビリティ・アプローチを用いて、住宅・土地の基本的機能が補償に反映されているか、また補償を通じて幸福の回復に寄与しているかを定量的に検証することである。22年度調査においては、東京大学による「東日本大震災による被害・生活環境・復興に関するアンケート」の2016年度のデータを用いて、幸福度と賠償金の関係について検証を行った。その結果、家屋や土地、田畑などの賠償金の受け取りやその金額に対する満足度と、全体の幸福度との関係性は確認されず、体重の減少や転居回数の多さといった健康や居住の安定性といった要因が有意に幸福度に影響することが確認された。ただし、これらの分析結果については変数の内生性が十分考慮されておらず、相関関係を把握しているにすぎないことには注意が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
22年度は、第1のテーマについて、2020年度国勢調査を用いて既存モデルに用いていたデータの更新を行っている。このデータ整理作業が想定より時間を要しているため、やや遅れが生じている。 第2のテーマについては、東京大学による「東日本大震災による被害・生活環境・復興に関するアンケート」を用いて満足度と特に住宅土地に関する補償の関係について分析を進めている。2016年度データをベースに基本的な分析を行った結果、一定の研究成果は得られたものの、内生性を十分考慮した分析を行うためには他の年度のデータとの統合が欠かせずその作業が遅れている。また、メルボルン大学の共同研究者との打ち合わせについても予定通り実施できなかったため研究計画に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
23年度は、放射性物質による汚染の移住に関する影響、および震災の影響が主観的な幸福度に与えた影響についての分析結果を取りまとめ、セミナーや学会を通じて発表し、論文を改訂していく。 具体的には、第1のテーマについては、前年度までで整備したデータをもとに、Banzhaf & Walsh(2008)の手法を用いて復興政策が人口移動にどのような影響を与えたかを検証する。さらに、空間線量の変化等動学的な要因を明示的に扱う動学的ソーティングモデルによって(Bayer et al., 2016 を参照)、復興に伴う人口回帰およびそれに伴う復興事業の価値について検証する。 第2のテーマについては、「東日本大震災による被害・生活環境・復興に関するアンケート」による双葉町からの避難者に関する分析に加えて、研究課題19K01614で構築した震災時に東北地方に居住していた個人を対象としたWEBアンケート結果を用いて、原発事故被害者、津波被災者、その他の3つの対象者ごとに幸福度の比較を行う。特に、帰還の可能性や帰還の希望別に幸福度を比較することによって、居住やその環境が持つ幸福度への影響を精査し将来の復興計画への政策的インプリケーションを得る。これらの分析の結果については、随時国内外のセミナー・研究会・学会等で積極的な報告を行う。 さらにインドやオーストラリアといった海外における災害などのとの比較を行うことで、災害から幸福度の回復における普遍的な示唆と異質性についても検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたメルボルン大学における打ち合わせや海外学会報告が実施できなかった。 令和4年度の研究成果をもとに、令和5年度においては国際比較を行う予定である。そのための打ち合わせ・現地調査予算として当該予算を使用する。
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