研究課題/領域番号 |
22K01498
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
福井 清一 神戸大学, 国際協力研究科, 名誉教授 (90134197)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 小口医療保険制度 / 現在バイアス / 損失回避性向 / 社会的選好 |
研究実績の概要 |
小口医療保険制への加入率が低い要因としては、既存の保険スキームの不備、保険事業者や医療機関に対する不信、インフォーマル保険制度の存在、潜在的保険需要者の非合理的心理(現在バイアス、損失回避性、直近バイアス)などが指摘されている。 本研究では、これらを考慮し、実験ゲーム等により計測した個人特性の数量指標と、別途推計した新しい保険スキームに対する個人の支払い意思額のデータを用い、個人特性が新たな保険スキームへの需要にどのような影響を与えるかを推計することにより、非合理的心理の是正が、小口医療保険の加入率向上に有効な政策手段であるかを検証する。 2022年度は、後述する理由により予定していた現地調査を実施することが出来なかった。このため、2019-2021年度科研費を使用して、カンボジア、シェムリアープ州で収集した調査データを用い、コロナ禍が調査地域における小口保険制度や小口金融制度の普及に影響をおよぼすと考えられる人々の行動変容に焦点を当てて分析を行った。 そこでは、コロナ以前と以後とにおける家計の変化と人々の行動変容(リスク選好、時間選好、社会的選好の変化)を検証した。分析の結果は、農村家計がコロナ禍による雇用・稼得機会の減少により所得・資産を減少させ負債を増加させていること、人々は、所得の減少を補填するために、タイなどへの出稼ぎ労働を増加させていること、この傾向は貧困層ほど顕著であることが明らかとなった。また、行動変容については、損失回避性向が低下し、損失を被ることを回避しようとする性向が弱まったこと、時間割引率が上昇し、将来より現在の利益を重視する傾向が強まったこと、および、コミュニティーに奉仕するという傾向が高まったことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、2022年度9月に調査を実施する予定であったが、コロナ禍による渡航制限のため、10月まで渡航制限が緩和されなかった。また、2022年度は大阪経済法科大学で常勤の仕事があり、2023年2月半ばまでは、授業や入試業務のため1週間以上の海外渡航は困難であったうえ、円安の影響で当初の当該年度予算(160万円)では、2023年2月、3月における十分な規模での調査の実施は困難と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度に繰り越した予算と、2023年度の予算を合わせて300万円以上の予算で調査が可能となったため、2023年9月に前年度に予定していた現地調査を以下のような手順で実施する予定である。 まず、カンボジアのシェムリアップ州農村地域において、500世帯を標本世帯として抽出し、これらの標本世帯の資産、所得、家族構成、過去の疾病経験、医療機関での治療経験、家族の健康状態、ショックに直面した場合の対応、過剰消費を防ぐためのコミットメントの方法などに関する家計調査、アンケート調査を行い、個人特性に関する基礎的情報を収集する。また、標本世帯員を対象に、調査地域で実施された小口医療保険プログラムにおける標準的なプレミアムを提示し‘Switching Multiple Price List”法を用いることにより、代替的な小口医療保険に対する各被験者の支払い意思額を推計する。 最後に、標本世帯員の時間選好、リスク選好等を測定するための実験を行う。このようにして収集された情報を用い、小口医療保険に対する支払い意思額を被説明変数とし、インフォーマル保険制度の利用可能性、現在バイアスの有無、現在バイ アスが有る場合にソフィスティケイトであるか否か、損失回避性向、直近バイアスの各種指標、および、その他の変数を説明変数、コントロール変数とした計量モデルを考案し分析を行う。その際、既存の保険機能を持つ制度への参加は被験者による自己選択バイアスの問題を回避するために、内生的処置効果モデル、内生的スイッチングモデル、傾向スコア・マッチングモデルなどの手法を用い、頑強な推定結果が得られるよう工夫をする。また、非合理性に関連した個人的特性についても、内生性の問題がある可能性を否定できない。このため、これらの変数についても、内生性を考慮できるいくつかの代替的モデルによる分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、2022年9月に予定していた現地調査が、カンボジア政府によるコロナ禍対応の行動制限により実施が困難となった。 その後、2023年2月中旬まで、勤務していた大学の授業や入試関係業務のために調査ができず、また、2023年2月後半から3月にかけての時期は、円安により当該年度の予算(160万円)では調査費用(約14000ドル)が賄えなくなったことにより調査を実施することができなかった。
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