研究課題/領域番号 |
22K01514
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
相場 大樹 早稲田大学, 産業経営研究所, その他(招聘研究員) (30813191)
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研究分担者 |
奥田 英信 帝京大学, 経済学部, 教授 (00233461)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 金融包摂 / カンボジア / マイクロファイナンス機関 / 貧困削減 / 資金流入 |
研究実績の概要 |
国内外の民間投資機関と公的な投資機関による多額の資本流入に支えられてきた。これまでは、国際NGOや開発金融機関がこの資本流入に大きく貢献してきたが、最近では、商業銀行によるマイクロファイナンス機関(MFI)の買収や合併の事例が増加しており、金融包摂への影響が懸念されている。本研究では、カンボジア現地MFIの買収状況を調査し、最近の買収事例が現地MFIの貸出行動に与える影響を分析した。分析では、カンボジアのMFIの地域別の貸出残高・貸出件数データを現地で収集し、Difference-in-Differenceアプローチを適用して買収の影響を統計的に分析する。また、各MFIの資金調達についても、バランスシートから資金調達先の情報を入手し、MFIへの投資機関の投資行動についても分析を行った。 分析の結果、買収がMFIの貸出ポートフォリオの増加に寄与した一方で、買収後はMFIの貸出配分が地方から都市部へと移行したことが判明した。したがって、商業志向の投資家による買収による所有権と所有構造の変更は、MFIのミッションドリフトを引き起こす可能性があることを示唆する結果と言える。また、資金調達に関する分析では、社会志向の高い投資機関からの資金調達は、コロナで国際金融市場が不安定だった期間においても継続した資金調達ができていたことがわかった。これらの結果から、貧困層に対する貸出を持続させるためには、社会志向の高い国際投資家からの投資を促進するための政府の取り決めが必要であることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、前年度にクリーニングを行ったデータを利用して実証分析を行った。特に、研究協力機関であるCambodia Microfinance Association(CMA)から提供された80行のマイクロファイナンス機関の2011年から2022年までの貸出の詳細が記録されているデータを利用して、マイクロファイナンスの買収の影響について実証分析を行った。また、カンボジアの中央銀行であるNational Bank of Cambodiから提供された2017年から2021年までの80行のマイクロファイナンス機関の借入に関する詳細なデータを利用して、MFIの資金調達先についても分析を行った。 また、これらの分析結果については、2023年度は、7月に東京大学で行われたAsian Economic Development Conference、10月で韓国のソウル大学で行われたThe 18th International Convention of East Asian Economic Associationといった国際学会で口頭発表を行った。 そして、2024年2月に、Empirical economics にて、マイクロファイナンス機関への金利規制への影響の実証分析に関する論文を出版した。また、2024年3月に、JICA緒方研究所のディスカッションペーパーシリーズとして、MFIの買収の影響に関する論文を公開した。 また、2023年度では、金融包摂に関連して前年度JICA緒方研究所が収集したカンボジアの家計の家計簿のデータを利用して、家計の金融行動やリテラシーについても分析を行い、JICA緒方研究所の報告書として出版した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ディスカッションペーパーとして公開した論文を国際学会などで発表し、論文の改定作業を行い、国際査読誌への投稿する。また、MFIの資金調達に関しての研究もディスカッションペーパーとしてまとめることを目指す。また、データ収集は引き続き継続し行う。特に、分析期間を直近でアップデートされたデータまで拡張し、分析結果の頑健性のテストも行う。また、必要であれば、家計調査や企業調査、金融機関の支店への調査等も行い、追加的に実証分析を行う。 また、2022年度に収集したカンボジアの家計の家計簿データを利用した金融行動や金融リテラシーの分析についても論文としてまとめ、国際査読誌への投稿を行う。 さらに、今年度は、East Asian Economic AssociaitonやSingapore Economic Conferenceなどの国際学会での口頭発表を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度に予定されていた調査を2024年度に変更したため、次年度使用額が発生した。2024年度は、主に旅費や現地でのアシスタントの雇用のために使用する予定。
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