研究実績の概要 |
本年度は労働市場におけるサーチ・モデルをベースとして, 個人が出産や育児などで一時的に職を離れなければならない状況が起こるモデルを構築しその分析を行った。先進国では出産・育児休業が政府によって義務付けられていることを考慮し, 制度が政府によって義務付けられていることを経済学的に正当化できないかどうかを理論的に検証した。 モデルを分析したところ, 企業が独自に休業制度を設けたくないような状況でも, 休業制度を義務付けることによって社会全体の資源配分が効率的になるような状況があることが示された。この結果の背後にある理由は以下の通りである。個人が一時的に休業せざるを得ないような状況で企業がそのような労働者を採算が合わないという理由で解雇してしまうと, 労働市場において効率性の観点から見て過剰な失業者が生じてしまうことになる。休業制度が存在することで休職者は休業明けに同じ職場に戻ることができ, 再び職探しをする必要がない. よって, 休業制度の義務化は労働市場における過剰な失業者を減らす効果があり, それによって効率性の改善につながっているのである。 これまで出産・育児休業制度の存在意義は男女の賃金格差の是正などミクロ的な視点から正当化する文献は充実していたが, 本研究のようなマクロ的な視点, さらには解析的な研究手法によるものはほとんどなかった。このような状況を考えると, 本研究で得られた結果は当該分野において重要な成果であると考えられる。
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