研究課題/領域番号 |
22K01540
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
宮里 尚三 日本大学, 経済学部, 教授 (60399532)
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研究分担者 |
板谷 淳一 北星学園大学, 経済学部, 教授 (20168305)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | positive peer effect / インフルエンザ / ワクチン接種 / 自発的公共財供給 |
研究実績の概要 |
本研究は、自発的公共財供給と捉えることのできるワクチン接種について、周囲の接種行動が本人の接種を促進させるかどうか、つまりpositive peer effectが実証的に確認されるか、また、理論的にどのような条件であれば、自発的公共財供給でpositive peer effectが発現するかを分析している。ワクチン接種が他の健康行動と異なるのは、それが公共財的性質を持っていることである。公共財という性質上、予防接種行動に関しては、少なくとも理論的には負の相互効果が予想される。本研究では、まず、日本のある市における全高齢者のインフルエンザ予防接種に関する行政データを用いて、地域における周囲の予防接種状況が個人の予防接種行動に及ぼす影響を実証的に分析した。まず、実際の推定では固定効果モデルを基本としてLinear Probability Modelで推定を行った。また、同居者がいなくなった場合にワクチン接種行動がどのように変化するか、またこのワクチン接種行動の変化が地域のピア効果とどのように相互作用するかを検証した。推定結果は、地域の予防接種率が高ければ高いほど、個人の予防接種率の上昇確率が高まるという正のピア効果が見いだせる。理論分析では、これまでの公共財の自発的供給の枠組みに基づきながら、同時手番や逐次手番のゲームのナッシュ均衡で、positive peer effectが発現するか、発現するとしたらどのような条件かを分析する。それらの分析結果については、Miyazato, Ibuka, and Itaya(2023) ”Peer Effects on Influenza Vaccination: Evidence from a City’s Administrative Data”,として2023年度日本財政学会で報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は、概ね当初の研究計画どおりに進んでいる。本年度に行った研究内容を以下にまとめる。本年度は、日本のある市のデータを用いて、予防接種行動に対する正のピア効果の実証分析を主に行った。予防接種行動の持続性を個人の健康投資に対する固定効果に基づくものであった場合、ピア効果は小規模コミュニティにおいてより大きく出ることが分かった。また、ピア効果は男性よりも女性においてより顕著であることが見いだされた。一方、同居者がいなくなる外生的な環境の変化をもとに分析を行うと、そのイベントを経験する個人のワクチン接種率は低下する。しかし、その個人のワクチン接種率の低下は、地域の予防接種率が高いと、接種率の低下は緩和される。それらの結果は正のピア効果を占めるものである。このことは、予防接種を受けていない人に予防接種を勧める対策は、正のピア効果がある場合に、より効果的であることを示唆している。同居者がいなくなることのイベントに関しては、男性のワクチン接種確率は減少する。しかし、その減少の程度は、地域のワクチン接種率が高いほど小さくなる。ただし、本研究にはいくつかの限界がある。まず、本研究のデータは65歳以上から収集されたものであり、また地方部に居住する人のデータである。そのため、今回の結果は東京や大阪などの大都市とは異なる可能性がある。今後の研究では、都市部など他の地域のデータを用いて分析範囲を拡大することが必要か望ましいかもしれない。また、本研究では正のピア効果を確認したが、その原因は分析していない。正のピア効果がどのようなメカニズムで発生するのかを明らかにすることは今後の課題であろう。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も引き続きワクチン接種のpositive peer effectに関する実証的な分析を行った。また、その分析結果を日本財政学会で報告した。また、実証的な分析を英文の学術誌に投稿し受理されるよう論文を改訂する。また、それと同時に、ワクチン接種のpositive peer effectに関する理論的な分析も行う。理論モデルでは、まず、公共財供給の一般的な効用関数を考える。自発的公共財供給に対する個人の選好は、warm-glow、prestige、snob effect、bandwagon effectなどを考える。本研究では、個人の自発的公共財供給は、ワクチン接種をするかしないかの選択になる。自発的公共財に対する選好は、公共財供給に対する個人のコミュニティーでの相対的なpositionに対する選好と考えることが出来る。より具体的には、コミュニティーでの相対的なpositionから効用を得られる個人を考え、コミュニティーや集団の平均的な貢献額に基づいて自身の寄付額を決めることを想定する。そのような想定の下、個人は自分の寄付の平均値からの乖離を最小化するよう行動する。また、一般的な予算制約式を想定し、個々人は効用最大化問題として公共財の自発的供給を決める。それらの想定の下、2人経済の同時手番のナッシュ均衡として、positive peer effectが導き出せるか理論的検討を行う。さらに、個人1をゲームのReaderとし、個人2をReaderの公共財供給を見て自身の公共財供給を決めるFollowerとした、逐次手番ゲームのナッシュ均衡として、positive peer effectが出現するかも検討する。今年度は、これらの理論的な考察についても、分析の精緻化を図っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度ですが、研究代表者の宮里が在外研究で国内にいなかったことで、物品等の購入が予定より少なかった。2024年度は物品購入に加え、国際学会参加などの費用も含め研究費を活用させていただく予定である。
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