研究課題
本研究は,国際的なM&A(クロスボーダーM&A)において,当事者企業の所在国のあいだに存在する制度上,社会文化上,その他心理上の要因の違いは,M&Aのアウトカム(例えば,成否など)にどのような影響をあたえているのか,実証的に行うものである。最初の実証研究においては,国の間に存在する「会計制度」の相違に着目し,その違いがM&Aの買収価格プレミアムに与える影響を検証している。具体的に国際会計報告基準の導入で会計制度の相違を表す。サンプルのバランスの関係上,ASEANの企業がかかわるM&Aを分析の対象としている。国際会計報告基準(IFRS)の導入と非導入の国とでは,また,導入前と導入とでは,M&Aの買収プレミアムへの影響が正のものか,負のものか,仮説を立てたうえで統計分析を行った。その結果,IFRSの導入は買収プレミアムの増加につながる効果が観察された。その他の関連要因を考慮に入れても結果は同様である。その理由ついては,会計情報の有用性や透明性の向上により,買収企業は(選定,交渉,Due diligence,統合などの)買収の段階において被買収企業の価値をより引き出すことが可能になり,したがってより高い買収価格を支払ってもいいと考えられる。すなわち,開示制度の完備と情報の透明性は被買収企業の株主にとっても有益なものであることが示された。本研究結果が示したように,国の制度をめぐる環境とその違いは企業の交際的な投資活動に影響を及ぼしていることが確認された。
2: おおむね順調に進展している
研究計画の通り,データを集めており,さらに統計分析を行う予定であり,現在のところおおむね順調に進展している。
次の実証研究においては,国の間に存在する「文化・社会」及び「心理的な要因」の相違に着目し,その違いがM&Aの買収価格プレミアムに与える影響を検証する。具体的に「文化距離」や「時間割引率」「リスク許容度」といった指標を計算し,それらにおける国の間の相違を定量化する。サンプルとしてグローバルなM&A案件を分析の対象とする予定である。サンプルやデータについてはすでにある程度そろっている段階である。その後は,M&Aの買収プレミアムに与える影響の方向について関連理論や先行研究を参考しながら仮説を立てたうえで統計分析を行う。統計分析について重回帰分析を中心に活用する予定であるが,それに関連する計量上の諸問題に留意しながら適切な対策を行っていく予定である。論文の初稿をまとめた段階で,国際的な学会で結果を報告するなどして,さらなる改善を図りたいと考えている。
次年度使用額(B-A)は16,902円が発生しましたが,これは購入予定の洋書が納期が長引いてしまし,結局年度末の納品期限に間に合わず,やむを得ず購入を断念して発生した金額です。その残額は次年度の書籍に充てる予定です。
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Handbook of Financial Econometrics, Statistics, Technology, and Risk Management
巻: - ページ: 2~21
10.1142/0000000000000_0126