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2022 年度 実施状況報告書

自社株買いの動機とその経済的帰結に関する包括的研究

研究課題

研究課題/領域番号 22K01588
研究機関関西大学

研究代表者

太田 浩司  関西大学, 商学部, 教授 (70366839)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード自社株買い / シグナル強度調整仮説
研究実績の概要

日本における自社株買いの研究は数多く存在しているが,そのほとんどは,米国における先行研究に依拠したものであり,日本独自の自社株買い制度を取り扱った研究は未だ少ない。そこで,本申請研究では,わが国特有の開示制度や買付制度を利用することによって,自社株買いの新たな側面を解明することを目的としている。
具体的には,Open Market Repurchaseの発表に関するシグナリングの強度調整行動を調査することにより,既存のシグナリング仮説を拡張している。Open Market Repurchaseが自社株を買戻す企業にとって拘束力のないコミットメントであることを考えると,株式市場は,企業のOpen Market Repurchase発表から生じる過小評価シグナルの信憑性を疑う可能性がある。そこで企業の経営者は,OMR公表に関する過小評価シグナルを強化するためのさまざまなメカニズムを駆使するであろうと考えられる。本研究では,Bad NewsがOpen Market Repurchaseと同時に公表され,Open Market Repurchaseからのシグナルの信頼性が脅かされた場合に,自社株買い企業の経営者がOpen Market Repurchaseプログラムの内容を変更するかどうかを調査している。
本研究の結果からは,シグナル強度調整仮説と一致して,自社株買い企業の経営者は,同時公表されるBad Newsの大きさに応じて,自社株買いの規模(期間)を増加 (短縮) するということがわかった。またこの研究からは,株式市場がシグナル強度の調整に対して正に反応することを示す結果が得られており,シグナル強度調整情報が市場にとって有益であるということを示唆している。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は研究進捗に際して特に大きな問題が生じなかったため,予定していた「Open Market Repurchaseの発表に関するシグナリングの強度調整行動」に関する論文を出版することができた。従って,本研究課題の現在までの進捗状況はおおむね順調であるといえる。

今後の研究の推進方策

本年度は,自社株買いの終了が市場に与える影響について,「株式需給の観点から自社株買い公表後の株価ドリフトの説明」を試みる。自社株買いプログラムの公表が市場に与える影響は日米で調査されており,正の異常リターンが観測されるという証拠が日米で提示されているが,短期のドリフトが観察されるのは日本だけであり,米国では短期のドリフトは観察されない。しかしながら,自社株買いプログラムの買付期間は日米で大きく異なっている。例えば,米国では,買付期間は予め定められておらず,平均して3~4年で終了し,終了のアナウンスメントは行われない。一方,日本では,買付期間は会社法で1年以内でなければならないと定められており,平均して3~4ヵ月で終了し,終了のアナウンスメントも東証の適時開示規則で義務付けられている。
自社株買い公表後の長期リターンを調査するChan et al. (2007)等の米国の研究からは,長期リターンと実際の買付量との間に正の相関があるという結果が報告されている。このことは,企業が自社株を取得することから生じる株式需給の逼迫が,長期リターンの源泉となっていることを示唆するものである。しかしながら,米国では,買付期間が長期にわたり,自社株買い終了の正式なアナウンスメントもないので,実際の買付期間の測定は推定で行われている。一方,日本では,もともと買付期間が短く買付終了の公表も適時になされるので,買付期間を日次単位で正確に測定でき,さらに買付終了に対する市場の反応を短期で検証することも可能である。
そこで本研究では,実際の買付量が買付期間におけるリターンに与える影響を調査するとともに,自社株買い終了の公表が市場に与えるインパクトを短期で検証することによって,株式需給が自社株買い公表後のドリフトの要因となっているかについて調査する。

次年度使用額が生じた理由

(理由)
購入予定のデータの販売が遅れたため。
(使用計画)
前年からの持越し分も含めて,本年度は,IFIS社の販売する「IFISコンセンサスデータ日次版」を購入する予定であるが,全ての期間は買えないので,予算の許す範囲内で購入する予定である。また,企業の情報環境に関する影響をコントロールするために,Financial Data Solutions Inc.が販売する「Fama-French 3 factor関連データ」の本年度分の更新データも作年度同様に購入する予定である。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2022 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)

  • [国際共同研究] The University of Auckland(ニュージーランド)

    • 国名
      ニュージーランド
    • 外国機関名
      The University of Auckland
  • [雑誌論文] Signal strength adjustment behavior: Evidence from share repurchases2022

    • 著者名/発表者名
      Ota Koji、Lau David、Kawase Hironori
    • 雑誌名

      Journal of Banking & Finance

      巻: 143 ページ: 106545~106545

    • DOI

      10.1016/j.jbankfin.2022.106545

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] The need for speed: an intuitive approach to understanding the relationship between audit quality and management earnings forecasts2022

    • 著者名/発表者名
      Lau David、Ota Koji、Wong Norman
    • 雑誌名

      Meditari Accountancy Research

      巻: 30 ページ: 185~212

    • DOI

      10.1108/MEDAR-11-2020-1071

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] 無形資産調整済み簿価時価比率(iB/M)の有用性2022

    • 著者名/発表者名
      太田浩司
    • 雑誌名

      企業会計

      巻: 74 ページ: 29~37

  • [学会発表] 無形資産調整済み簿価時価比率(iB/M)の有用性について2022

    • 著者名/発表者名
      太田浩司
    • 学会等名
      日本経済会計学会第39回年次大会,大阪大学
    • 招待講演

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公開日: 2023-12-25  

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