研究課題/領域番号 |
22K01619
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研究機関 | 大阪商業大学 |
研究代表者 |
加藤 慶一郎 大阪商業大学, 総合経営学部, 教授 (60267862)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 藩札 / 銀札 / 米札 / 留守居 / 御用頼 / 幕藩関係 |
研究実績の概要 |
第92回社会経済史学会学会全国大会にて報告「江戸幕府による藩札の統制について:届出制度を中心に」を行なった。本報告は萩藩の銭札と米札の発行に関するもので、幕府は同藩が行った藩札発行のための届出について、銭札は却下している。さらにその後の対応においては、幕府役人の関与があったことなどを説明した。 また、「藩札発行権の取得過程 : 享保十五年の徳島藩を中心に」(『大阪商業大学商業史博物館紀要』24、 263-271頁)を発刊した。本論文は徳島藩が幕府の審査を受ける際に、審査にあたる幕府役人(老中や勘定奉行など)に関する情報収集が重要であったことを明らかにした(史料では「好」と表現されていた)。こうした情報の収集には少なくとも留守居が関与していたことが判明した。 史料調査については、岡山藩藩政史料を閲覧・収集するため、岡山県立記録資料館(池田家文庫を所蔵)を数度にわたり訪問し、適宜史料を収集した。徳島藩については、国文学研究資料館の収蔵歴史アーカイブズ」に架蔵されている同藩藩政史料である蜂須賀家文書を活用した。 ほかに、参照事例を増やすため、佐賀藩、宇和島藩、和歌山藩、関宿藩、姫路藩などといった個々の藩を取り上げ、その一部については現地調査と基本資料の収集をおこなった。ほかに銀札に限らず、変則的な展開をみせた米札などについても対象として範囲を拡大した。これらの事例においても、幕府の審査結果(許可された通用期間の長短など)が個々の藩札の発行・流通実態をあるていど反映していることが確認できた。 さらに三善庸礼『御国家損益本論』、海保青陵『稽古談』、草間直方『三貨図彙』などの江戸時代の経世家の著書などにも有用な叙述を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで諸藩と幕府藩札審査制度の関係を史料にあたってきた(徳島、岡山、萩、和歌山、佐賀、姫路、関宿、宇和島など)。その結果、史料から得られる情報に関して多寡や深浅はあるものの、幾ばくかの情報がその都度得られつつある。 藩の届出内容を審査する過程において、幕府と藩との間に立った幕府役人や藩役人に関する情報は十分得られたとは言い難い。しかし、断片的な情報を集成することによって、享保期に発足し幕末まで存続した本制度の歴史像をあるていど解明できるのではないかとの感触は得ている。
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今後の研究の推進方策 |
幕府の藩札規制に関しては、宝永4年以降の7つの法令の存在がこれまでは知られている程度であった。そして、先行研究には実効性のない、形式的なものという評価も見られた。本研究では、諸藩の事例から審査事例を検出して諸法令についてその実効性を評価し、さらにそれに付随して取られた措置を勘案することで、幕府の審査制度の内実を明らかにしたい。 また当該制度の歴史的変容には、各時期の社会経済状況、各政権の個性、諸藩の動向などが作用したと考えられるため、こうした背景も合わせて論じたい。その際に必要なのは諸藩の事例である。萩藩や徳島藩の他にも、やや断片的ではあるが、享保期、宝暦・寛政期、化政期、天保期、慶応期について、幕府藩札規制の実態把握がある程度進められているため、当該制度を通観したいと考えている。さらに、これらの個別の実証を基に、藩札をめぐる幕藩関係の解明を進めたい。
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