研究課題/領域番号 |
22K01636
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
砂川 和範 中央大学, 商学部, 准教授 (10318321)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 技術標準化 / 互換性生産方式 / 産業集積 / 技術移転 / イノベーション / イギリス経営史 / アメリカ経営史 / 科学技術社会論 |
研究実績の概要 |
今年度は、コロナ禍の流行が収束していない状況、自身の健康状態に鑑み海外渡航を控えたため、すでに史料所在地の確認ができ、既に部分的に入手できている資料の分析、国内の関連サイトでの調査、ならびに技術標準化をめぐる研究動向についてのサーベイ文献調査を中心におこなった。 前者についてはBSAの内部文書(英国ウォーリック大学現代史料センター,MRC)に所蔵のものである。財務諸表、取締役会議事録、工場配置図、写真図版である。社内報、私信なども存在しにはアクセス出来ていない状況にある。その結果、1861-1880sの時期の会社設立期の産業集積の状況、作業組織の変化については確認済である。残るバーミンガム文書館、ソリハル文書館の2箇所に分散して存在する史料については未了である。また当社と関係の深いDaimlerやVickersに関する関連史料については次年度以降に調査を進める方針である。 後者については、標準化をめぐる歴史研究は、経営史、経済史、科学技術社会論(STS)にまたがって存在している。中心となる機械金属加工業についての技術論のリサーチも併せて行なってきた。今年度は、特にBusch,(2011)Standard:Recipes for Reality, 並びにLampland & Leig Star(2009)Standards and their Stories, Schlaudt & Huber(2015)Standardization in Measurement,の2論文集の各論文の精読を行なった。また視点・方法として着目する経営学の質的研究の方法論としてcritical management studies並びに経営人類学的研究の動向についても文献サーベイを行い、その成果の一部を経営学史学会で報告し『経営学史学会年報』の査読論文として投稿し受理され刊行を待つ状況にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」で述べたように、既に入手しているBSAの内部史料の分析をもとにした「互換性生産方式」の起源、導入過程、既存技術者の抵抗と需要、軍需生産から民生品への需要構造の変化などについて1850年前後の状況から1880s分析を行うことができたものの、まだ調査・分析の余地は残存している。 また技術標準化をめぐる歴史研究の動向については、広く経営史、経済史、技術史、科学技術論にまたがる論文・書籍等のサーベイが必要であるが、1970sを中心に行われたSaulやRosenbergらの「互換性生産方式」をめぐる歴史先行研究の蓄積を踏まえた上で、今世紀に入って新しい視点で登場してきた「技術標準化」をめぐる歴史研究の動向の把握が必要である。これらは多彩な分野で登場しているため、精力的に文献を集め精読してきたが、まだ途上にあると言わざるを得ない。 また近年、その発展が著しい歴史研究を含めた質的研究方法の開発・展開は、経営史や技術史研究の方法論を大きく変化しつつある。本課題の研究方法としても大変興味深いため、英国を震源地とするcritical management studiesの動向や、科学技術社会論で発展してきた科学社会学、科学人類学、とりわけ難解で知られるLatourやWoolgerらのアクターネットワークセオリー(ANT)の研究動向の把握は必須であるものの、まだ自身の研究方法として応用する試みの途上にある。 以上の状況ではあるが、その成果の一部は、学会報告、学術誌への投稿として実績を積み重ねてきてはいる。ただ、今年度は、残念ながら新型コロナの流行が収束しない状況で、自身の健康状態も踏まえ現地渡航を控えざるを得ない状況が続いた。そのため、当初予定していた現地での資料収集・調査が実施できなかった。したがって、当初の計画から「(3)やや遅れている」と率直にいわざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降、新型コロナの状況の収束を鑑みて、現地調査が可能になり次第、イギリス、アメリカで実際に現地の状況を把握した上で、2点の調査を実施する予定である。 ①既に部分的に入手を終了し分析を進めている英国ウォーリック大学現代史料センター所蔵のBSA史料の調査・分析を継続し、未確認資料の調査・入手・分析を進めることに加え, BSAの所在していたバーミンガム周辺ミッドランド地域の機械金属工業の産業集積に関連する史料について、バーミンガム市バーミンガム文書館、バーミンガム近郊のソリハルのソリハル文書館の2箇所に分散して存在するものについて今後、収集・分析をすすめたい。またBSAと関係の深かった、英国DaimlerやVickersといった自動車・軍需関連の企業に関する関連史料の存在も確認できているため、次年度以降に調査を進める方針である。 ②イギリスに展開した標準化技術のルーツである、アメリカ合衆国における19世紀半ば以降の互換性生産の登場と発展、イノベーションをめぐる歴史分析についての史料についても収集・分析を進める方針である。アメリカ合衆国に所在する「互換性生産方式」に関する分析は、以下の5箇所に分散して所在する一次史料に依拠したものである。それらは、①ワシントンDCに所在する議会図書館(Library of Congress)、②メリーランド州ボルチモアのジョンスホプキンス大学ピーボディ研究所図書館(George Peabody Library)、③ワシントンDCのスミソニアンの2博物館(The National Museum of American History, National Air and Space Museum)のアーカイブ、④メリーランド州ウィルミントンに所在するハーグリー博物館のアーカイブ、⑤ミシガン州デトロイトに所在するヘンリーフォードミュージアムである。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、残念ながら新型コロナの流行が収束しない状況で、自身の健康状態も踏まえ現地渡航を控えざるを得ない状況が続いた。そのため、当初予定していた現地での資料収集・調査が実施できなかったため、大幅な予定予算の執行ができなかった。次年度以降に海外への渡航を後ろ倒し西して予算執行を実施する方針である。
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