研究課題/領域番号 |
22K01651
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
奥居 正樹 広島大学, 人間社会科学研究科(社), 准教授 (20363260)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 事業転換 / 異化 / 経路依存性 |
研究実績の概要 |
本年度は新しい事業領域を見出すための文脈の導出について文献調査を中心に取り組んだ。焦点を当てたのは、既存事業の深化と共に最適化される技術を異なる事業領域へ転換するための理論の探索である。 伝統産業企業の技術は長い時間をかけて成熟したスキルや知識であり、それは効率性や有効性を高めるために高度化・先鋭化してきた努力の賜物である。一方で、これはSydowら(2009)が指摘する経路依存性のロックインフェーズ、すなわち技術が発展する選択肢の範囲を徐々に排除することで高度化・先鋭化するパターンが自己強化的にフィードバックされ、それが持続的に再現されながら固定化し、問題が露呈しない限り代替えパターンが締め出された結果とも考えられる。このロックインフェーズから脱するには、選択肢を増やすか初期フェーズに戻って新たに経路を見つけ直すかのいずれかと述べる。しかし、その実現方法は明確にされていない。 Sydowらが指摘する初期化とは文学研究で議論される「異化」、すなわち慣習化して日常の中に埋没化する「同化」に対して、敢えて異なるコンテクストを背景にすることで普段とは異なる意味を導き出す「異化」と同じであると考えられる。この「異化」とは、Sklovskij(1917)が文学批評の方法として打ち出したものであり、視点をずらすことによって生気を取り戻すことである(Steiner,1984)。また建築学では「建築は既存環境から読み取った空間のコンテクストを反映させるべき」との考え方からコンテクストを読み替える技法として「異化」が秋元(2002)や岡田(2003)らをはじめとして議論される。これらの研究に共通するのは、視点をずらすことで新たなコンテクストを導き出し、従来とは異なる意味を見出すことにある。しかし何をどのようにずらすかという点についてはあまり議論が深められておらず、課題として残されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最初の課題である技術が持つ意味・価値の導出を読み替える理論とそのパターンの把握に対する先行研究レビューが進んでいる。またこれまでに実施した訪問調査の結果との親和性や妥当性の確認も予定どおり進んでいるため、おおむねね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は第2の課題である文脈読み替えのための「収束と拡散」の実態と変相パターンの把握について文献調査を進める。それとともに国内企業を中心に訪問調査を行い、企業の事例調査に取り組む。これまでの調査から国内企業の技術ドリブンによる事業転換には大きく2通りのパターンが想定されるため、この点に関する訪問調査を行う。 コロナ感染症の世界的な流行もおさまりつつあるが、この疫病がもたらした企業への影響は大きく、今なお組織変更や担当者の異動などが生じている。予定していた調査でも様々な調整が必要になるため、その対応に取り組みながらスケジュールの遵守に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症対策のため、学会報告等がwebに変更されるなど交通費の支出が抑えられ、次年度以降の訪問調査費として支出することになった。また企業に対する調査協力が得られにくく、訪問調査が広島県内に偏ったことも一因であった。これについては、調査対象企業を全国に拡げ、訪問するためのアポイントを電話やメールを用いて依頼することで対応する。 また情報機器の購入を予定していたが、OSとアプリケーションのバージョンの整合性の確認等に手間取ったため購入が先送りとなった。これについては2023年度早々に確認のうえ手配する。
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