研究課題/領域番号 |
22K01659
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
小本 恵照 駒澤大学, 経営学部, 教授 (50554052)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | フランチャイズ / ウェルビーイング / 高齢化 |
研究実績の概要 |
2023年度は、(1)ウェルビーイング(WB)概念の整理とフランチャイズ(FC)研究への応用可能性の検討、(2)FC加盟者のタイプの違いがWBに与える影響に関する実証分析、(3)FC加盟者の高齢化問題の実態把握を行った。 まず、WB概念については複数の分析レベルから検討を加えた。具体的には、最も対象が広い人生に関して、ヘドニックとユーダイモニックの両面からWBの概念に関する研究の現状をレビューした。その検討を踏まえ、仕事に関するWBの文献をレビューした。それによると、2000年代以降、ヘドニックに加えユーダイモニックのWBに関する研究が増加していることが明らかとなった。さらに、企業家に焦点を当てて検討を加えた。それによると、WBへの関心は高まっているが、ヘドニックのWBのみを対象とする研究やクロスセクション分析がほとんどで、ユーダイモニックのWBに関する経時的分析が不十分であることが判明した。FC加盟者の研究ではWBの中の職務満足を対象とする研究がほとんどであり、他のWB概念に対象を広げ、より高度な方法で分析する余地があることが判明した。これら結果を論文として発表した。 次に、FC加盟者のタイプの違いがWBに与える影響については、日本政策金融公庫の「新規開業実態調査」の複数年の個票データ用いて分析した。それによると、(1)開業動機に違いによって加盟者は5つのタイプに分類できる、(2)利益追求、社会貢献、自由やゆとりの希求などに関する程度が各タイプで異なる、(3)高齢者には社会貢献とゆとりを求める傾向がある、(4)利益追求型では高齢者になるほど満足が得られにくい、(5)学歴や性別の影響の大きさがタイプによって変化することが明らかとなった。これら結果を学会で報告した。第3の加盟者の高齢化問題については、インタビュー調査から本部企業の経営者が高い関心を持っていることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度の研究計画は、(1)フランチャイズ(FC)への応用の視点からウェルビーイング(WB)概念の検討を行い、(2)FC加盟者から一次データを収集し、(3)従来の手法では解明が困難な複雑な影響を潜在クラス分析を用いて分析することを主たる目的としていた。 まず、WB概念の検討については、人生、仕事、企業家、フランチャイズという視点から文献をレビューした。研究が急速に発展している領域であるが、実証分析の実施に向けて最新の研究動向の現状と課題を理解し、実証分析遂行の基礎を固めることができた。 実証分析については、潜在クラス分析の内容理解と関連ソフトの操作の習得が不可欠なため、これらの点を最優先して研究を遂行し、基礎から応用レベルまでの主要なスキルを習得した。また、FC加盟者に関する二次データを入手し、高齢化が職務満足に与える影響に関する実証分析を潜在クラス分析を使って行った。 研究実績の概要に記述のとおり、目的の(1)と(3)については達成した。しかし、上記の2つの研究に予想以上の労力を要したことから、FC加盟者から一次データを収集し分析する点については実施に至らなかった。また、(1)実証分析に適した対象企業の選定の遅れ、(2)検証すべき仮説構築が十分進まなかったことも、一次データによる実証分析が進まない要因となった。これら遅れが生じたのは、加齢がWBに影響を与えるルートには多様なものがあり、焦点を当てるルートの特定が難航したことがある。また、仮説構築が不十分な段階での加盟者に対する拙速なアプローチは、結果的に望ましい成果につながらない可能性が高いと判断したことも実施を遅らせた要因となった。 上述の結果を総合すると、当初の目的の一部は達成できたものの、目的を達成できず次年度に持ち越しになった課題が生じたということになる。こうした点から、研究は「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
フランチャイズ(FC)加盟者の加齢とウェルビーイング(WB)の関係の新たな視点からの解明を目指し、(1)FC展開する本部企業の協力を仰ぐなかで、(2)チェーンの加盟者から一次データを収集し、(3)従来とは異なる分析手法による実証分析を遂行していく。 まず、本部企業の協力については、運営委員として設立に関わった日本マーケティング学会内のフランチャイズ・システム研究会から得られるネットワークを活用する。複数の企業から前向きな回答を得ている。研究の焦点については、分析の主眼を暦の年齢や主観的年齢といった「様々な年齢概念」と「時間に対する見方(未来時間展望など)」を中核的な概念に置き、加齢がWBに与える影響の本質に迫る実証分析を遂行する。また、運営する店舗の数やロイヤリティの率といった経営の重要な要素は加盟者間で異なっている。こうした加盟者が置かれている環境要因も丹念に救い上げながら実態解明を図っていく。 FC加盟者からのデータ収集については、データはオンライン・サーベイによる定量的データの収集を想定している。アンケートの設問については理論をベースに集めることとなる。そこでは、FC加盟者や本部企業へのインタビューによって、より実態に即した理論の選択と改良を進めることに留意する。データ収集にあたっては、採用する実証分析手法との整合性が重要となる。調査協力が得られるチェーンが限定されるため、加盟者単位の分析を基本として研究を遂行する。ただし、チェーンの違いの影響に関する緻密な分析可能となるマルチレベル分析も当初から排除することなく、上質なデータ収集を心掛けたい。 データ収集後の分析では、複数要因の複合的な影響分析が可能となる潜在クラス分析を実施する。なお、その際には、クラスの決定で生じる内生性の影響を考慮した分析手法を適用することでより頑健な因果関係の解明を目指すこととしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
実証分析に必要な一次データの収集を進めることができなかった。このため、出張などが予定よりも少なかったことが次年度使用額が生じた主な理由である。2024年度は一次データの収集を進める予定であり、FC加盟者に対するインタビュー関連費用に充当することとしたい。
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