研究課題/領域番号 |
22K01671
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
辺 成祐 東洋大学, 経営学部, 准教授 (40737467)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 工程間調整 / 工程管理 / 標準化 / 自動化 / プロセス産業 |
研究実績の概要 |
研究2年目である令和5年度には、国内外で文献・資料の収集・調査を行いつつ、企業担当者とのヒアリングと企業の工場及び本社・事業部等の実地調査を積極的に行った。具体的には、鉄鋼メーカー6回、醸造企業3回、電機メーカー1回、食品メーカー2回、金属加工中小企業2回、合計14回の実地調査を行った。これに加えて行った資料収集、ヒアリング調査、その後のフォローアップ調査の成果を国内外の学会で積極的に発信した。具体的には、学会発表10件(うち、海外学会発表3件)を行った。 本研究の目的は、プロセス産業の生産現場において「調整負担を軽減させるために工程管理を標準化、自動化していく経路」を明らかにすることであり、工程間調整の技術的な必要性そのものではなく、調整負担を軽減させるために工程管理を標準化、自動化していくプロセスに集中して、理論的・実証的な分析を行うことに主眼をおいてある。 令和5年度には、第2の研究課題である「工程間調整を標準化・自動化するための組織とITシステムの役割」を明らかにすることに集中した。そのために、鉄鋼メーカーの生産現場におけるIT技術導入とスマート・ファクトリー化、さらにはデジタル・トランスフォーメーションへの取り組み状況について実地調査を複数回行った。また、鉄鋼産業だけでなく、他産業との比較分析も行った。そのために、令和4年度の実地調査回数(7回)の2倍の14回の調査を行った。醸造産業、食品産業、電気産業、金属加工産業の調査を通じて、工程間調整を標準化・自動化するための情報の流れを分析した。 文献・資料の収集・調査については、日本と韓国の鉄鋼メーカーの社史、技術報告書、ホームページを中心に、生産情報を共有するための手法やツール、組織の在り方、ITシステムの導入事例の資料を収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展し、研究3年目の令和6年度も積極的な実地調査と深い研究を行う予定である。第一点目に、当初計画した実地調査はおおむね計画通りに行った。ただし、比較分析のための、ガラス産業の分析、そして国際比較分析のための、台湾のプロセス産業の実地調査は実現できなかった。これらの実地調査は、令和6年度に計画している。 これまでの研究では、主に‘生産現場’において、企業が工程間調整負担を軽減させるために取り組む工程管理の標準化・自動化を分析してきた。具体的には、複数工程を跨る調整と一貫品質管理組織の役割に焦点を当てながら、負担軽減のためのマネジメントに主眼をおいてきた。調整作業の標準化・自動化を行うためには、ITシステムが重要な役割をしていることが分かった。センサー技術の発達により、リアルタイムでデータを収集することが容易になっている。しかし、鉄鋼産業の場合、製銑工程、製鋼工程といった上工程は、下工程の圧延工程より、デジタル技術の導入・活用が遅れていることが明らかになった。1500℃をこえる高温作業、長時間の化学反応による生産が多いからである。溶鉱炉のデジタルツイン技術がマスコミなどで紹介されてはいるものの、実地調査した大手鉄鋼メーカーではまだ導入していなかった。また、メンテナンス作業は、定型化された作業が少ないため、ITシステムを活用した標準化・自動化があまり進んでいないことも明らかになった。 第二点目に、これまでは、生産における工程間調整を主な研究対象としてきたが、令和6年度には、前段階である開発における取組も追加調査する必要があることが分かった。例えば、鉄鋼メーカーが新しい鋼種を開発する際に行う部門間連携とレシピ作成のためのパラメータ操作について研究する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
研究3年目の令和6年度には、国内外の企業訪問調査を積極的に行う。その際、調査の視点として、以下の2つをもつ。 まず、本研究の第3課題である標準化・自動化を難しくする要因を技術と組織の側面から明らかにする。工程間調整のための標準化・自動化が進んでいる産業でも、特に高級製品の生産においては、いまだにオペレーターと一貫品質管理部門による作業が行われている現状を踏まえ、標準化・自働化を難しくする要因を、産業間比較分析を通じて明らかにし、それを克服するための方法を探る。令和5年度の研究では、設備のメンテナンス作業のように、定型化された作業が少ない場合、ITシステムを活用した標準化・自動化が難しいことが分かった。これを踏まえて、開発現場、生産現場における作業間比較分析も行う。 次に、工程間調整の標準化・自動化を、アーキテクチャ論から分析することを試みる。ものづくりの簡素化、簡略化を分析した加工組立産業の製品アーキテクチャ論を応用して、工程間調整の実態と、標準化・自動化による調整負荷軽減のマネジメントを分析する。 最後に、鉄鋼産業に加え、化学産業、ガラス産業など、他のプロセス産業を対象とした比較分析を引き続き行う。その際、日本、韓国、台湾の企業を対象に訪問調査を行う。これらの企業が調整負担を軽減させるために工程管理を標準化、自動化していく中で、それを妨げる要因を、技術と組織の側面から明らかにする。 令和6年度の前半では、韓国のプロセス企業を訪問調査し、標準化・自動化を難しくする要因を分析する。後半では、台湾の実地調査を加え、これまで実施した調査を踏まえて、標準化・自動化を難しくする要因を体系的に明らかにし、調査成果を国際的に発信していく。
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