研究実績の概要 |
2023年度は、地域未来牽引企業の特許データに着目し、(1) イノベーションの前提となる知財出願活動の活発さや産業分野別の特徴、ならびに、(2) 本研究開始のきっかけとなった「(知識伝搬における)企業間の地理的近接性の変化」について、予備分析を実施した。 (1)については、ターゲット企業4,751社について、2000年から2019年までの20年間に出願された全特許(10万2千件)を収集し、集計と分析を行った。出願特許は、R&D活動の代替変数としてしばしば利用され、イノベーションのイネイブラーとしても知られている。分析の結果、(i) ターゲット企業の半数強(56%)が特許を出願しており、通常の中小企業よりもかなり活発な知財活動が行われている事、(ii) 産業別では「製造業」、「鉱業・採石業・砂利採取業」、「情報通信業」などで活発な出願が行われている事が分かった。 また、(2)については、地域間のナレッジフローを可視化するため、(1)で収集した特許データのサブセットである「共同出願特許」(約18,000件)を分析した。共同出願では、一つの特許に二つ以上の出願人(法人)が含まれる。そのため、出願人の所在地間で知識フローが生じているとみなす事ができる。都道府県別では、東京や大阪といった大都市圏の企業を含む共同出願特許が多く、全体の30%程度を占めている事が分かった。一方、同じ県内の企業群による共同出願は、全体の13%のみであった。また、共同出願における出願人同士の「地理的な距離」を近似的に計算したところ、2000年代よりも2010年代のほうが有意に長くなっている事が確認できた。以上より、現代日本においては、他の組織とともにオープンな知識創造を試みる際、ペアとなる企業間の地理的近接性の重要性が薄れ、都道府県境を越えたダイナミックなナレッジフローが生じている様相が示唆される結果が得られた。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、地域未来牽引企業の「特許出願データ」の整備、ならびに、その分析に時間を要してしまったため、当初計画において予定していたアンケート調査を実施することができなかった。また、加えて、今年度は、上記出願データのみの分析から興味深い結果が得られたため、当初の予定にはなかった「企業業績データ」を購入することに決め、ナレッジフローと業績との関係について、今後深耕する予定とした。そのため、当初計画との差異が生じており、これが次年度使用額の原因となっている。2024年度は、アンケートを中心に使用計画(予定額:約1,067千円+670千円=1,737千円)を遂行する予定だが、概要は以下の通りである。 【1】 「その他」940千円: ①アンケートの印刷費・封筒代: 300千円, ② 郵送費640千円(発送・回収: 4千企業×160円), 【2】「人件費」400千円: ① アンケート結果の入力アルバイト: 200千円 (1千円×二名×100時間), ②分析補助アルバイト: 200千円 (2千円×100時間), 【3】「物品費」 297千円: ① 分析ソフトSTATA 160千円, ② 図書(海外図書・文献): 137千円) 【4】「旅費」100千円: 特色のある地域(2か所程度)と企業(合計4~5社)を選び、インタビューを実施。1回5万円×2回を想定。
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