研究課題/領域番号 |
22K01719
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
石塚 史樹 明治大学, 経営学部, 専任教授 (40412548)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 人的資源管理 / 金融危機 / 企業統廃合 / 中小企業 / 労使関係 / 法律保護 |
研究実績の概要 |
2024年2月28日より2024年3月25日に研究目的の遂行のために現地調査を行った。2024年2月29日から3月2日までベルリン市にてBayer社企業文書館(Scheringianum)における文書調査を行った。2024年3月4日と3月6日にはマンハイム市のZEW(欧州経済研究センター)においてデータセットの収集を行った。2024年3月5日にはダルムシュタット市のレーム社の本社事業所を訪問した。2024年3月7日と3月8日にはケルン市のVAA(独化学産業のマネージャー労組)本部を訪問した。2024年3月11日から3月15日および同3月18日~3月22日にはマール市のEvonik社文書館を訪問した。このうち、Bayer社文書館では旧Schering社の企業文書を調査し、第二次世界大戦後の取締役のPersonnel Fileと上層マネージャーの給与表を検分した。目的は、金融危機以前の、特に1990年代の成果主義以前の取締役と上層マネージャーの人的資源管理(HRM)に関する個人レベルの情報を取得し、金融危機以後の状況との比較を行うことにあった。ZEWでは、MIP(マンハイム・イノベーション・パネル)の2022年度集計データを調査した。目的は、本研究計画の研究重点の一つである独中小企業のHRM・労使関係の特徴を探り出すことにあった。レーム社では同社がEvonik社より分離した後のHRMの構築とコロナ後の職場形成に関する詳しい状況を聞き取り調査した。目的は、企業統廃合を近年に経験した企業のHRMの変化を探り出すことであった。VAA本部では、同労組が中小零細企業のマネジャーに法律保護サービスの提供状況の聞き取り調査を行い、金融危機以後のHRM上の問題を探り出そうと試みた。Evonik社では、グローバル企業のHRMの変化をPersonnel filesの調査で探った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
戦略的に調査先を選択し、できるだけ効率的に研究目的に接近できることを試みた。特に、本研究計画の重点の一つである中小企業のHRMおよび労使関係上の情報に、多くのサンプル数を確保しつつアクセスするのは極めて困難であったが、化学企業のマネジャー労組に時間をかけて現地調査への協力を依頼した結果、VAAが提供している「法律保護」サービスの提供先である化学産業に属する中小企業に関する極めて多彩な情報を集めることができた。一方、今回の調査は概要をつかむことに時間を集中したため、法律保護の提供企業に直接アクセスすることは今後の課題となった。ZEWの調査も、効率的に中小企業のHRMの情報を多くのサンプル企業に関して収集することに大きく貢献した。ここで集めたデータセットを用いた分析結果は、すでに論文として仕上げ、今年の日本労務学会の自由報告にて発表する予定である。また、バイエル社文書館では第二次世界大戦後に勤務した最上級のマネジャーのPersonnel Fileを発見することができ、1990年代から金融危機勃発までの時期のマネジャーとは明らかに一線を画する行動原理で勤務していた状況が浮かび上がったことも、研究計画の意味ある進展につながった。また、Evonik社文書館では、1金融危機勃発後に他企業に統合されたマネジャーのHRM上の扱いについても知ることができ、研究計画の進展に大きく貢献した。また、レーム社における調査により、「グローバル・スタンダード」に基づくHRMからは独企業が距離を置くようになったという本研究計画のコンセプトを補強する明確なエビデンスが得られたことも、研究計画の大きな進展を可能にした。今回調査により、独企業におけるHRMに関するベストプラクティスの最新の展開を概観できた。
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今後の研究の推進方策 |
今回調査により、中小企業におけるHRM上の問題点と従業員提案制度がインセンティブとして重要な役割を果たしている事実を浮かび上がらせた。また、企業統廃合を経験しかつ企業規模と事業環境を変化させざるを得なかった企業がHRM上のベストプラクティスを、グローバルスタンダードには依存しない形で再構築している状況が浮かび上がった。加えて、取締役会メンバーの勤務生活上の問題点が浮かび上がった。今後はまず、これらの発見を軸として、企業の性格に合わせたHRMのベストプラクティスの組み合わせの理論的な類型化を改めて試みたうえで、この頑健性をテストするために再び、調査の幅を広げる形で事例研究のための調査を進めていく予定である。一方で、マンハイム・イノベーションパネルのデータセット収集もまだすべてのデータを全ての年度にわたり取得できているわけではないため、漏れているサンプルの情報を地道に追加する作業を続けるつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナにより、自らが研究代表を務め2024年3月まで延長された科研費(課題番号18K01786)の遂行を優先せねばならず、当該科研費による調査遂行の開始時期が今年2月末からとなったことが最大の理由である。今年度よりは、当該科研費の研究計画の遂行に時間を当てられるため、遅れた支出分も合わせて失効する予定である。
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