研究課題/領域番号 |
22K01777
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
西村 順二 甲南大学, 経営学部, 教授 (60198504)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 卸売業 / 生産性 / 卸売の規模構造 / 卸売段階 / 卸売業態 |
研究実績の概要 |
初年度は、元卸と仲卸の特性分析と市場スラックが存在することを明らかにすることを目標に、先ずは生鮮食料品の卸売市場の集荷・配荷機能に関する既存研究をレビューしてきた。そして、生鮮食料品等を扱う食料品卸売流通業者を研究対象として、中小規模性の意味することを探索型研究として行った。流通課業において卸売業にもたらされる影響要因として以下の3つが指摘されている。(1)製造業段階の二重構造(大規模な製造業者と中小零細規模な製造業者の存在、そして下請け制度による製造部門の分業化の進展)、(2)国内市場の狭隘性から多数の零細規模の生業小売業が広範に立地することへの許容、そして(3)製造業者の売り放し政策の存在とその受け皿として卸売流通の位置づけである。 これらの中で特に(1)の視点に焦点を当て、卸売業者の中小規模性、業態性(流通段階)、業種性に着目し、その生産性への規定関係を確認した。商業統計表のデータを活用し、従業員当り販売高と、事業所当り販売高を従属変数とし、それぞれに対して、事業所規模と事業所の流通段階タイプを独立変数として、2要因分散分析を行った。その結果、従業員当りの販売額でも、事業所当たりの販売額でも、その生産性においては規模間に差異があるということから証明できた。流通段階における段階・業態固有の役割よりは、事業所数の多寡が生産性には影響を与える可能性が残された。 但し、それを市場スラックの存在としての検証には至っておらず、次年度の研究において進めていく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1年目では、元卸と仲卸を区分し、その特性分析と市場スラックが存在することを明らかにすることを目指したが、卸売業の段階間に差があることを明らかにすること、それが生産性に影響を及ぼす可能性、そしてそれはまた市場スラックの存在に繋がる可能性は明らかにできた。 しかしながら、生鮮食料品の卸売市場の集荷・配荷機能に関する既存研究をレビューしていく中で、地方卸売市場の役割と中央卸売市場の役割に差異が存在する理論的可能性が浮かび上がってきた。単純に元卸と仲卸という2次元区分だけでは研究解題を明らかにすることにおいて困難性があるということである。元卸の集荷と仲卸の配荷状況から段階分化の必然性について考察すると共に、実はそれが市場特性(中央卸売市場と地方卸売市場)において、異なる影響関係が存在することを組み込んだモデルにする必要が生じてきたのである。そのエリアに属性を組み込んだ上で、卸売の段階と地域特性から、それらに応じて市場スラックが生鮮食料品卸売市場に存在することが必要であると思われる。、従って、理論モデルの修正を行っていないままで、業界データ(商業統計表流通経路別統計編、卸売企業の財務データ等)から時系列分析し、元卸と仲卸に対するアンケート・ヒアリング調査を計画・策定するという当初の研究工程には進めなかったのである。 なお、卸売市場における元卸売企業へのインタビュー調査も行い、事例研究として整理していくことについても一部は進めることができたが、改めて調査する必要があるということになった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では、2年目には二次・一次データに基づき、卸売市場の多段階・小規模性を実証することを目指していた。そして、市場スラックの維持理由、そして多段階化する元卸と仲卸の取引市場の競争性の本質を確認し、小規模集積であることからDXや技術革新等により効率的かつ生産的な働きを提供できる可能性を確認する。また、複合的な因果関係の可視化やその解釈から、多変量解析、QCAや定性分析を活用する。マルチメソッド(Schneider and Wagemann 2012)を、実証の補完として行う。さらには、その検証等の補完のために、卸売市場内元卸売売企業や仲卸売企業へのインタビュー調査は行うものとする、ということになっていた。しかしながら、1年目の研究を進めていく中で、元卸と仲卸という2段階構造がその生産性や市場スラックの存在を説明する規定要因であるだけではなく、地域性により市場属性がさらには重要な規定要因であることが明らかになった。 従って、2年目には速やかにモデルの修正を行うとともに、それに応じた仮説の導出、そしてそれを検証するための適したデータを収集し、さらには時系列回帰分析等の方法論による検証を行うって行くことにする。それにより、生産性の規定要因とそれによる市場スラックの存在を明らかにできるものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度の研究進行において、モデルの修正が必要となり予定通りの研究に若干の遅れが生じたため、未使用額が生じた。次年度は、当初の予定を迅速に進めることで、この遅れを取り戻すこととする。
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