研究課題/領域番号 |
22K01783
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
笠井 直樹 滋賀大学, 経済学系, 准教授 (80584143)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 監査の品質 / 監査規制 / 監査報酬 / パートナーローテーション / 会計不正事例 |
研究実績の概要 |
昨今,東芝事件等の会計不正事例を背景に,主に公認会計士(監査人)の提供する監査業務の品質(監査品質)を高めることを意図した監査規制の強化が行われている。しかしながら,わが国を含め国際的にも監査規制の導入による影響について体系的な分析が十分に行われていないこともあり,制度設計議論に資する研究成果の蓄積が国際的にも求められている。 そこで,本研究では,監査規制に直接関連する論点を取り上げ,その影響を財務データ等の公表データを用いた定量分析や個々の事例分析等を通じて明らかにする。具体的には,近年国際的に導入が進んでいる監査規制のうち,特に,監査品質との関連性が高い,①監査報酬,②監査人のローテーション,③監査報告書の情報内容の拡充策を対象に分析を行う。本研究は,監査品質に影響を及ぼす要因を特定することによって,国際的に進展している監査研究および監査規制の制度設計議論に貢献するだけでなく,監査実務(特に監査の品質管理の高度化)にも応用可能な知見を提示することが期待される。 本年度は,先行研究のレビューと事例分析を通じて論点整理を行うとともに,リサーチ・デザインの改訂も併せて実施した。特に,わが国においては,監査上の主要な検討事項(KAM)の開示が近年開始されたため,データの蓄積が進んでいない状況にある。そこで,KAMの開示実態の把握を行い,開示内容の傾向について分析を実施した。 他にも,本研究では,アウトカム指標として,経営者による利益調整行動をはじめとする複数の会計利益の品質指標を設定し分析に利用しているため,複数の指標間の関係についても改めて検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画どおり,本年度は,分析に使用するデータ・ベースの構築を中心に分析実施環境の整備を重点的に行った。特に,分析で用いる監査人およびコーポレート・ガバナンス関連のデータについては,不足しているデータを市販のデータ・ベースから入手するとともに,市販のデータ・ベースに収録されていないデータについては有価証券報告書等から手作業で収集した。 また,改めてリサーチ・デザインを検討したところ,監査人のローテーション制度および監査上の主要な検討事項(KAM)関連制度については,制度・実務の詳細を確認したうえでリサーチ・デザインを改訂する必要があることが判明した。今回のリサーチ・デザインのマイナーチェンジにより,追加で新たなデータが必要となったことから,別途新たに市販のデータ・ベースを入手し対応を行った。 他にも,アウトカム指標として,経営者による利益調整行動をはじめとする複数の会計利益の品質指標を利用しているが,こうした指標の多くは直接会計利益の品質を測定するものではなく,間接的に利益の品質を測定する指標であることから様々なノイズやバイアスが混入する可能性が高い。そこで,監査の品質および会計利益の品質が事後的に低かったことが判明した会計不正事例のデータを収集し,より直接的なデータを利用することを検討している。 このように,データ・ベースの整備やデータ分析実施環境の整備といった当初の計画については予定通り実施することができたが,先述した理由の通り,当初計画していたローテーション制度やKAMに関する分析を十分に実施することはできなかった。次年度以降は,本年度構築したデータ・ベースを活用しデータ分析を進めるとともに,研究成果の公表に注力する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度構築したデータ・ベースを用い,本格的に分析を実施するとともに,研究成果の公表に重点をおく。海外・国内学会における研究報告および論文の公表に注力するとともに,適宜分析の精緻化を進める予定である。 また,海外の研究機関の研究者と研究交流を行い,本研究を推進するために活用する予定である。 他にも,国内の研究会および学会等にも参加・研究報告を行い,最新の研究動向をキャッチ・アップするとともに,分析手法の精緻化を進めるための機会を確保する。
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次年度使用額が生じた理由 |
対面で参加予定であった国内外の学会がオンラインで開催されたことにより旅費の使用総額が大幅に減少したことと,購入したデータ・ベースの価格が想定したよりも低かったことが主な原因である。 次年度は対面での学会参加・報告を予定しており,今年度の残額と併せて次年度に使用する予定である。
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