研究課題/領域番号 |
22K01807
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
佐藤 清和 金沢大学, 経済学経営学系, 教授 (40258819)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 機関投資家のエンゲージメント / 財務分析 / リアルオプション分析 / 残余利益モデル / 確率的最適化 |
研究実績の概要 |
1990年代初頭、わが国では金融機関や事業法人が上場企業株式の70%を保有していた。ところが、今日では国内外の機関投資家の株式保有比率は50%を超え、経営者のモニタリングの主体は、メインバンクや企業集団から機関投資家へと大きく転換した。 これまでの銀行や事業会社によるガバナンスとは異なり、パッシブ運用を主とするインデックス投資家である機関投資家の多くは、ポートフォリオ内にある企業を詳細にモニタリングするとは限らない。このような状況の下、2014年には日本版スチュワードシップコードが導入され、機関投資家による責任投資に関する行動規範が規定された。さらに2017年には同コードが改定され、機関投資家には議決権行使の公表が求められることとなった。 このような一連のソフトローの導入は、機関投資家による投資先企業に対するモニタリングの必要性を喚起し、彼らのエンゲージメント活動が活性化する契機となった。その後、機関投資家のエンゲージメント活動は、株式保有比率や時価総額の大きな企業、買収防衛策を導入している企業、あるいは高い現金保有比率の企業等に対して実行されるという形で、一定のモニタリング機能が果たされてきた。 しかしながら、上述のようなエンゲージメント活動とは、少し見方を変えるならば、投資先企業の持続可能な成長を促すというよりも、投資リターン拡大のための機会主義的行動の表出と評することも可能である。 これに対し本研究では、機関投資家によるエンゲージメント活動が、このような機会主義的動機によることなく、投資先企業の持続的成長に資する建設的な視点から実行される条件を示すとともに、エンゲージメントに関する重要な財務指標である残余利益(エクイティスプレッド)が有するリアルオプション価値に注目することにより、経営者と機関投資家の双方にとって中立的な視点からのエンゲージメント評価の方法を提示する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は次の2点である。(A)機関投資家によるエンゲージメント活動をリアルオプションの視点からモデル化することにより、彼らの機械主義的動機に基づくエンゲージメントを抑制し、経済合理性を有するエンゲージメントが実行される環境構築に貢献する。 (B)エンゲージメントにおいて争点の一つを形成すると想定される残余利益(エクイティ・スプレッド)に内在する長期収益力を、リアルオプション価値として再評価することで、短期業績主義によって惹起される経営者と機関投資家間のコンフリクトを低減させる。 本年度は、(A)のリアルオプションモデルと(B)の残余利益モデルを記述する場としての「会計情報空間」を提示し、その構造と特性について検討し、学会報告および論文に取りまとめた。そこで展開した論点は次のとおりである。 会計情報とは企業内部の経営者と外部の機関投資家を結ぶ最も重要な情報の一つであり、会計基準ではこれを財務諸表という様式で表示することを求めている。この財務諸表では、企業による経済取引の顛末を示す貨幣情報が、財政状態、経営成績ならびに資金収支という視点からシステマティックに展開されているが、その表示方式はタテの勘定科目とヨコの取引金額からなる表(シート)形式で与えられており、いわばタテ×ヨコの2次元平面情報という規格に従っている。このような表形式の情報に基づく経営分析は、長い年月を経て今日に至るもなお主要な分析手法として、機関投資家をはじめとするステークホルダーに用いられている。 これに対して本研究では、会計情報を資産・負債・資本という記録要素からなる3次元空間と設定した上で、これを「会計情報空間」と呼び、企業の財政状態を位置ベクトル、またその変異を経営成績として可視化した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、(A)のリアルオプションモデル、および(B)の残余利益モデルを、「会計情報空間」における企業ベクトルの運動方程式として記述し、同方程式の解として経営者と機関投資家間にとっての最適なエンゲージメント活動を定量的に示して行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究報告をした学会がWEB開催となったため出張費が0円となった。 この繰越分と翌年度請求分を合わせて、機関投資家および上場企業に関するデータベースの購入およびデータ収集の経費に充当する。
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