研究実績の概要 |
企業価値評価の実務においては,DCF法とともにマルチプル法などの複数の方法を同時に用いる併用方式が利用されることも多い。そこで,複数の価値要素を加重平均して価値評価を行っている併用方式について確認を行い,評価方法の特性に鑑みて検討を行う。 本研究では,これまでの併用方式に関する実証分析での結果を踏まえ,モデルの正確性を高めるための情報として,追加的に顧客価値についても検討している。またテキスト・マイニングの利用によって定性データについても勘案する。企業価値に影響を与える要因には様々なものが考えられるが,企業が収益を維持,成長させていく上で,収益をもたらす顧客は重要となる。Blattberg and Deighton(1996)では,ステーク・ホルダーは,現在および将来の顧客との関係が企業の貴重な資産であり,最も価値があるとは言えないまでも,その認識を強めているとしている。そこでは,顧客数,顧客あたりの利益率,顧客維持率,および企業の資本コストなどを利用して顧客価値を測定している。そして,Braun, Schweidel, and Stein(2015)では,顧客獲得,顧客維持,および顧客生涯価値(CLV)について議論され,特にCLVを正確に推定することで,外部のステーク・ホルダーは,すべての既存顧客の残りの生涯価値に,まだ獲得されていないすべての顧客のCLVの正味現在価値を加えたものを推定することができるとしてる。この顧客価値についても,併用方式における価値評価に活用できると考えられる。そこで,まず顧客価値の理論的な整理をおこなっている。 実務においても理論的な根拠を基にして,有用性の高いモデルが必要とされるため,併用方式による企業価値評価モデルの発展は大変有益であると考える。
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