研究課題/領域番号 |
22K01861
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
石岡 丈昇 日本大学, 文理学部, 教授 (10515472)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | レジリエンス |
研究実績の概要 |
本プロジェクトは、マニラの再居住地における貧困化過程を所帯構成の変化から読み解くというものであった。現地調査からは、貧困を生きる人びとにとって「同居すること」は、ときにたいへん困難なものであることが見てとれた。貧困であるということは、家族が同居できないことでもある。出稼ぎに行ったり、家賃を準備できなかったりして、同居生活が継続できない。こうした同居の単位となる「世帯」をめぐっては、イマニュエル・ウォーラーステインの「世帯」論と重ねて理解することの必要性も見えてきた。 この前提にあるのは、マニラの貧困世帯は、生活の単位のなかに、つねに余人を抱えていることの重要性であることがわかった。スクオッター世帯には、各所帯に余人がいる。そうした人びとは、現地では「イスタンバイ(istambay)」と呼ばれる。この言葉は英語で言うstandbyと同様の意味を備えており「控えている者」というニュアンスを持っている。何をするわけでもないが、所帯に居候している人びとがいるのである。そうしたイスタンバイたちは、水を買ってきて家に運び込んだり、子守りをしたり、あるいはテレビをずっと観たりしている。しかしこのイスタンバイは、洪水が起きたときなどには、大活躍する。赤ん坊を避難させ、家具を移動し、逃げ遅れた人を救出する。スクオッター生活から導かれる哲学は、「余人を以って替えがたい」仕組みを作ってはならないことである。余人では替えが効かない仕組みだと、もし所帯主が病気になったり、さらには亡くなってしまえば、生活が壊滅してしまう。特定の個人の能力に依拠して生きることは、貧困下を生き延びる上ではご法度なのである。そうではなく、余人を巧みに使って、「みんな」で「回す」仕組みを作ることこそに、スクオッター生活のレジリエンスが見てとれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍で現地調査が不可能であった過去数年と比べ、今年度は現地調査やフィリピンから日本を訪れた人々への聞き取り調査などを通じて、かなり詳細なデータを取得することができたため。また、その成果を迅速に高評価することができたため。成果公表の面においても、論文や著書の執筆、講演などをおこなっており、成果の発信もできている。以上より、(2)概ね順調に進展している、という区分が妥当であると言える。 次年度は、よりいっそうの研究の発展を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、ポストパンデミックに移行し、より現地調査を進めることで、本プロジェクトに即した一次データを取得していくことが重要になる、また、理論的にも、新しい概念をブラッシュアップさせるような考察を展開していくことで、事例研究と理論研究を接合するような方向性を打ち出したい。また、国際学会での発表や交流なども、ポストコロナの段階においては積極的におこなうことで、海外研究者との論点のすり合わせ作業も展開する予定である。さらにポストコロナ期で日本を訪問するようになった外国の研究者たちとの共同研究を進めていくことも構想している。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査の日程が、当初予定よりも、コロナ禍の影響が以前としてあったため、短くせざるを得なかったため。今年度は、中長期の現地調査が可能になっており、予算執行が旅費を中心におこなわれることになっている。さらに使用計画としては、国際的なアウトリーチ活動を念頭においた論考や原稿の作成、さらにはWebページやウェブ記事などの執筆のための費用を計上していく予定である。
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