研究課題/領域番号 |
22K01861
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
石岡 丈昇 日本大学, 文理学部, 教授 (10515472)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 再居住地 / 貧困 / 通勤 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトは、マニラの再居住地における貧困化過程を所帯構成の変化から読み解くというものであった。2023年度の調査を通じて、再居住地からマニラの職場までの通勤が、時間的にも金銭的にも、住人たちの経済・社会生活に大きな圧力となっている模様を把握することができた。 強制撤去によって再居住地に「送られた」人びとには、その後の対応において、大きくふたつの類型がある。これは現地の言葉では、再居住者(relocatee)と出戻り者(returnee)と言われる。再居住者とはその名の通り再居住地に居住する人のことで、出戻り者とは再居住地での生活を諦めてマニラに出戻った人である。両者は別の類型を成しているが、しかし、そこには共通する前提がある。現在の再居住者もまた、将来には出戻り者になりうるという潜在的可能性である。そして再居住者が、再居住地の生活をあきらめて出戻り者になる要因としてあるのが、通勤による疲弊であることがわかった。 再居住地の人びとは、マニラのどこで働くかによって移動の経路は変化するが、基本的には元の居住地を経由してそれぞれの職場まで通勤している。満員のジプニーで大渋滞の中を通勤するのは、身が擦り切れるような経験である。交通費や食費の増加は、皮肉にも、より多くの通勤を課すように機能する。こうした費用がたくさんかかるようになるからこそ、住人はこれまで以上に身を粉にして働いて、家計を維持する必要が出る。再居住地では主たる家計支持者が休日出勤をサンロケ在住時以上におこなうようになることがわかったが、そこには休日出勤をおこなわなければ、手元に生活費が残らないの現状を見てとることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍で現地調査が不可能であったこれまでと比べ、2023年度は現地調査ほかができたため。そして、その成果を迅速にまとめることができたため。論文や著書の執筆、講演などをおこなっており、成果の発信もできている。以上より、(2)概ね順調に進展している、という区分が妥当であると言える。 2024年度は、よりいっそうの研究の発展を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
家計データの分析を進める中で、2023年度は通勤による交通費が家計を圧迫しているという新たな知見を得ることができた。この知見を踏まえて、家計や家族構成の動態の理解をより深めるために、現地調査に加えて、オンラインでのやり取りを実施していくことが調査対象者とも合意をすることができた。よって、今後の研究の推進策として、現地調査を中心に、そうではない期間においてもオンラインでの情報交換をおこなうことで、より精緻な本研究に関わるデータが取得可能になることが期待される。ここに今後の研究の推進方策がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響もあり、初年度(2022年度)の未使用額が依然として影響しているため、その分、プロジェクト2年目の2023年度においても結果的に次年度使用額が生じることになった。2024年度はフィールド調査だけでなく文献調査を精力的に行う予定であり、また、2022年度の未使用分であった調査を、当初に予定していた計画に即して実施する予定である。結果として予算使用が問題なく進められると考えられる。また、本プロジェクトはすでに記した通り、順調に成果を公表できており、当初の想定以上の成果公表のためにも次年度使用額を使用する予定である。
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