研究課題/領域番号 |
22K01862
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
澁谷 望 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (30277800)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 新自由主義 / 資本主義 / フーコー / 社会的投資 / 予示的政治 |
研究実績の概要 |
本研究は福祉・教育政策において影響を強めつつある社会的投資アプローチ(社会投資国家)を新自由主義的統治の一形態として位置づけ、その含意を明らかにするとともに、社会投資アプローチへのオルタナティブとして、欧州を中心とした都市でインフラの再公営化および「コモンズ」と「パブリック」との結合(Public-Common Partnerships=PCP)を進めるミュニシパリズムの実践を対置しその可能性を検討するものである。昨年度は、コモンズの創出/再生に関する理論的分析を中心に研究を遂行した。 コモンズは、伝統社会における相互扶助とサブシステンスの実践の場であったが、近代において囲い込み(エンクロージャー)によって弱体化し、あるいは消滅していったことはよく知られている。また同時に、「クリエイティブ・コモンズ」など、近年再評価がなされているのも事実である。本研究は、資本主義が形成される過程で、コモンズが立法によって「犯罪化」され、取り締まりの対象となる一方で、コモンズは、コモンズを防衛する民衆の側の直接行動と不可分であったことを明らかにした。現在のコモンズの再評価が意味するのは、コモンズの実践を依然として「犯罪化」し続ける一方で、それを部分的に許容(「脱犯罪化」)せざるをえない資本=国家(行政)のジレンマであり、コモンズの犯罪化と合法化の間の、曖昧な領域の拡大である。 昨年度の研究では、この点に着目し、(1)「合法的」なコモンズだけではなく、「犯罪化」と「合法化」の間に位置する直接行動を伴うコモンズの再評価の必要性を検討し、(2)そのための戦略として、コモンズと相互扶助の実践の空間を一時的に切り開く「予示的政治」を位置づけ、(3)PCPが、直接行動を伴う「コモンズ」のポテンシャルを排除しない仕組みを必要とすることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は「コモンズ」の創出を志向する社会運動の実践の分析と理論的な検討を加えることに関しては、計画通りだが、投資言説の分析に関しては、時間が取れず当初の見込みよりやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
【A】投資言説の文化の分析: 引き続き本研究は、社会投資言説を支えるものとして、ポピュラー文化における「自己投資」言説の広がりに注目し、「アントレプレナー」および「自己啓発」言説と社会投資の親和性を分析する。 また、社会投資国家の理論的分析も継続する。
【B】ミュニシパリズム型統治の形成過程の分析: 昨年度に引き続き行う。今年度は特に、あるコモンズ的アソシエーションが、別の、ないし別種のコモンズ的アソシエーションをシナジー的に生み出す循環の観点から、「コモンズ」と「パブリック」との結合(PCP)を検討する。この循環は、Nick Dyer-Withefordが「コモンの循環」と呼ぶものであるが、地域レベルでこれを可能にするのがミュニシパリズムであり、「資本の蓄積」として個人の能力に投資する戦略である人的資本のロジックと対立する。
【C】両者の統合:上記A とBの研究を統合する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、研究補助を予定していた方々の都合で、前期に時間が取れず、昨年度繰越分を使い切ることができないかたちとなった。また予定していた現地調査が都合によりできなくなったことも理由の一つである。今年度は、いっそう慎重に研究補助業務を管理すると同時に、繰越額は、人件費、PC関連費、調査費の支払いに使用する。
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