研究課題/領域番号 |
22K01881
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研究機関 | 北星学園大学 |
研究代表者 |
水川 喜文 北星学園大学, 社会福祉学部, 教授 (20299738)
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研究分担者 |
鴨澤 あかね 北星学園大学, 社会福祉学部, 教授 (50582730)
大島 寿美子 北星学園大学, 文学部, 教授 (60347739)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | エスノメソドロジー / 会話分析 / 集団精神療法 / システム・センタード・セラピー(SCT) |
研究実績の概要 |
本研究は、エスノメソドロジー・会話分析の基本的な思考法や発想を用いることで、システム・センタード・アプローチ(Systems-Centered Theory, SCT)による集団精神療法の実践において、がんサバイバーの当事者がどのように相互支援を行っているかを考察・分析するものである。本年度は、SCTの基礎的方法論の相互共有・考察と既取得データの基礎的分析を中心に行った。 研究論文「SCT(Systems-Centered Therapy)を用いたグループ心理療法の心理的効果―がん体験者のグループにおける質的研究を通じて」(『集団精神療法』)では、SCTを用いて、がん体験者を対象に実施した集団精神療法を質的分析することで、SCTとその実施に関して基礎的概念的考察を行った。この他、日本心理学会大会での発表やワークショップにおいてもSCTの基礎的概念を活用した考察・実践を行うとともに、それらの概念を社会学的に捉えなおす試みも行った。また、本研究の対象となる、がんサバイバーの体験を個別具体的に了解するものとして、分担者の大島寿美子編集により『中皮腫とともに生きる 希少・難治性がん患者と家族の26の「ものがたり」』(寿郎社)が公刊された。同書は、がんサバイバーの当事者団体(NPO)と連携したもので、本研究の基礎的な理解を共有できるものとして位置づけられる。 以上のように、本年度は、がんサバイバーの参加する集団精神療法がいかに実施され、相互支援が行われているかという点に関して、エスノグラフィックな実態把握と、SCTの概念を用いたかたちでの基礎的な質的分析を行ってきたと位置づけられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画としては、COVID-19の状況などを勘案し、SCTの基礎的方法論の相互共有と既存データの分析を中心に行うことを予定した。既に本研究の代表者と分担者は、過年度に実施したがんサバイバーを対象にしたSCTによる集団精神療法の過程の録音録画をデータ化をした上で考察と分析を既に開始していたため、その方向で本研究の方針に沿って研究を進めた。例えば、分担者の鴨澤が主催したがんサバイバーが参加した集団精神療法については、その過程を「語り(narrative)」を通して捉えることで、機能的サブグループおよびSCTの語りの特徴について、上記の論文(2022)で展開的考察を行った。また、本年度は新型コロナウイルスの状況を考慮して、リモートによる集団精神療法のデータ取得も試みた。さらに、研究対象者へのインタビュー研究では、当事者の視点による、集団精神療法のいくつかの過程も明らかになっている。 初年度の研究は、これらを深化させることで、日本心理学会大会での発表「がん体験者を対象としたSCT(Systems-Centered Therapy/ Approach)を用いた集団心理療法のプロセスの検討」やワークショップ「グループの心理力動とリーダーの介入根拠を理解する“機能的サブグループ”を体験し、「今、ここで」の体験を探求することを通じて」の実施などにより、本研究の目的であるSCTという集団精神療法の実践過程についての新たな視点を探究した。これらに加えて、本研究の主たる分析手法である会話分析の基礎概念についての再確認も実施した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方策としては、2022年度までに実施した基礎的な考察・分析をもとにした論文・発表をふまえて、集団精神療法における当事者同士の相互支援の過程をエスノメソドロジー・会話分析によってさらに考察を深めていきたい。まず、基礎となる、がんサバイバー・体験について関連組織との結びつきを通して、引き続きエスノグラフィックな理解をさらに深める。特に希少がんなど個別具体性に注目したい。次に、システム・センター・セラピー(SCT)に関して、継続してワークショップや研究発表を行うことで、コア概念である「機能的サブグループ」「今、ここで(here and now)」と「その時、そこで(there and then)」の対比などについて探究する。 さらに、これらの基礎的な体験や実践に使用される概念に対して、エスノメソドロジー・会話分析によって再特定化(再分析)することを含めて研究をすすめる。その中で成員カテゴリー分析(Membership Categorization Analysis)なども用いて、相互行為のシークエンス中でのカテゴリー化がいかに実施されているかを考察する。加えて、言語だけの相互行為に限らない、視線や身体動作も含めた「マルチモダリティ」について考慮に入れるという方向性も検討する。以上のように、本年度は、過年度の成果をもとにして基礎的な理解を深め、SCTを実践するとともに、それらをエスノメソドロジー・会話分析的に考察部席することで研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、当該年度においては、COVID-19の影響が残っており、対面の調査研究、国内外の学会出張が抑制されたことが主たるものである。特に国際学会に関しては開催の前年度に申し込みが必要ということもあり、感染状況を勘案すると本年度の参加は困難となっていた。特に、2022年度に限っては、国外の国際学会は対面方式に戻っているにも関わらず、国内の情勢としては海外への渡航が制限されるという状況であった。その他、国内学会や対面による調査研究に関しても制限があったため、また、調査対象者が療養中(療養後)の当事者を主とするということもあり、リモートなどを利用して可能な限り実施したが、次年度への使用額が生じた。
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