研究課題/領域番号 |
22K01963
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
山田 祐子 日本大学, 文理学部, 教授 (90248807)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高齢者虐待 / 虐待 / 死亡 / 検証 / 介護殺人 / ソーシャルワーク / 権利擁護 / 地域包括支援センター |
研究実績の概要 |
2022年度年度の研究計画は、①文献調査と資料収集、②予備調査である。 文献調査と資料収集においては、申請者は、本研究テーマについて日本においていち早く1990年代から本格的に取り組んでいるので、その蓄積とともに、海外の専門学術誌を購入し常に情報収集を行っている。また学会活動および社会貢献活動を通して都道府県、市町村の担当者や関係専門職と意見交換を行い、最新の事例や調査データ、事例をチェックするよう努めた。 予備調査の実施前に、資料分析と情報収集を行った。2021年度において「2021年度年度度老人保健健康増進等事業:高齢者虐待における死亡・重篤事案等にかかる個別事例検証による虐待の再発防止策への反映についての調査研究事業」を行い、検証の手引きの改訂を行ったことも併せて、実施するという大きな動きがあった(申請者も参加)。そして成果物『高齢者虐待に伴う死亡事例等検証の手引き』(2022年3月)を発行し、2022年度よりこの手引きを指針として、各自治体で検証が展開されるという大きな動きとなった。本研究事業において、厚生労働省が毎年実施している「『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査」の結果から都道府県、市町村より報告のあった死亡事例について、厚生労働省担当者が、事例と検証に関して、担当者にヒアリング調査を行ったが、担当者の異動や、地方自治体の個人情報保護条例の制約から、必要な資料や情報が収集できないという困難性が生じていることが示唆された。 従って、現時点において、検証実施事例の詳細の把握は、研究者にとってかなり困難と工夫が求められることが推察された。従って、リサーチデザインの再検討を行うことにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度においては、新型コロナウィルスの感染拡大の状況は、2023年3月13日以降にマスクの着用は個人の判断となったように、収束とはならず、全国調査実施を慎重に検討することにし、予備調査は来年度以降に行うこととした。 高齢者虐待防止ソーシャルワークについては大きな動きがみられた。2022年度、厚生労働省が日本社会福祉士会に「2022年度厚生労働省委託事業 高齢者虐待対応マニュアル改訂に係る調査研究事業」を委託し、厚生労働省老健局が市町村・都道府県担当者向けの高齢者虐待対応と養護者支援の手引書である『市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について』(以下「厚労省マニュアル」と記す)の改訂作業を行った(申請者も委員として参加)。現在の時点で内容の公表はされていないので、分析は2023年度以降となる。なお厚労省マニュアルは、市町村や都道府県の担当者の高齢者虐待対応基準と指針であるので、改訂は支援の内容と質にも重要な影響をもたらす。従って、その普及・定着状況にも配慮し、調査時期を新たに設定し、調査内容の再調整の必要性が生じた為、2023年度以降において分析と検討を行うこととした。また研究事業を受託した日本社会福祉士会は県支部において弁護士と「虐待対応専門職チーム」をつくり、市町村へのコンサルテーションや研修の開催等を行っている。その研修は「標準研修プログラム」と呼ばれ、「高齢者虐待対応ソーシャルワークモデル」を構築し発展させ、日本で初の認定上級社会福祉士の認証プログラムとなった高度なプログラムである(申請者は監修者として参加)。厚労省マニュアルの改訂内容に準じて日本社会福祉士会の「標準研修プログラム」の改訂に関しても、全国の高齢者虐待防止を担う社会福祉士にとって重要であるので、引き続き情報収集や意見交換を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の実施については、新型コロナウィルスの感染拡大の状況に配慮しながら行う。コロナについては2023年5月8日より分類が5類となり、新型コロナ患者は法律に基づく外出自粛要請がなくなり収束に向かっているとも考えられるが、高齢者施設は職員等の感染リスクが却って高まると予想され警戒感をもっているので関係専門職の多忙な状況は継続すると思われる。従って2022年度以来引き続き、新型コロナウイルスの感染拡大という状況に配慮し、また感染拡大が本研究テーマに、どのような影響が出ているかについて情報収集を継続し検討する必要があると推察され、リサーチデザインと調査実施の日程を再調整することとした。 また厚労省マニュアルの改訂とその普及、厚生労働省の関連研究事業等についても、分析および情報収集を行っていく。 なお日本における高齢者虐待防止実践の法的根拠となる高齢者虐待防止法の改正の動きが、2022年度から本格的に開始された。2006年4月に施行された高齢者虐待防止法は施行後3年後を目途とした見直しが規定されているが、未だ見直しが1度も行われていない。そのような中で日本高齢者虐待防止学会は、2022年度に改正案を作成し国会議員と厚生労働省に提出、日本社会福祉士会、日本司法書士会連合会、日本弁護士連合会も其々改正案を年度内に作成するに至った。法改正の動きは今後さらに活発に論議されていくと推察されるが、申請者が事務局長である日本高齢者虐待防止学会の改正案は、検証の推進や専門的支援の質の向上を図る体制整備についても改正案に盛り込んでいる。この法改正案が国会で通過すれば、高齢者虐待防止の推進とともに、本研究の枠組みも大きく変化することが予測されるので、走りながら考えることになろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度においてもコロナの影響で関係機関が多忙であり、コロナが虐待の発生要因に関係する虐待事例も散見される。従って、調査実施にあたり収束状況について見極めも重要である。また研究実施にあたって、検証の手引きの改訂とその普及状況、厚労省マニュアルの改訂、各団体による法改正案の提出の動き、という大きな施策をめぐる動きの影響から、リサーチデザインと調査実施スケジュールの再検討をすることとした。それにより次年度使用が生じた費用(主に予備調査関係の諸費用)については、2023年度以降に同目的の執行に充てる予定である。
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