研究課題/領域番号 |
22K01984
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研究機関 | 日本医療大学 |
研究代表者 |
松本 真由美 日本医療大学, 保健医療学部, 教授 (20738984)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | オーストラリア / トライビューナル / 権利擁護 / 非自発的入院 / 精神医療審査会 |
研究実績の概要 |
日本の精神医療は多くの課題を抱えている。特に、精神科病院における非自発的入院は、入退院の基準が曖昧で、長期化しやすく、また、入院者のための権利擁護機関として設置されている精神医療審査会が十分に機能していないことが指摘されている。本研究は、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州を参考に、準司法機関であるMental Health Review Tribunalおよび、法的援助機関Legal Aid NSWのしくみと実践を詳細に把握し、特に、運用面の利点と課題を抽出することを目的の一つとする。 令和4年にTribunalとLegal Aid NSWで聞き取り調査を実施し、実際のヒアリングに参加した。ヒアリングとは非自発的入院者に対し定期的に実施される聞き取り調査である。弁護士、精神科医、適切な資格を有する3名のパネルが、入院者と入院者側弁護士、主治医、状況により家族やピアサポーターらの発言を聞き取る。参加したヒアリングはTribunalの一室と、入院先の精神科病院を通信機器でつなぎ、入院者とその関係者の発言を聴くことができた。約30分程のヒアリングののち、入院継続の妥当性を判断し、入院者に結論が伝えられた。 入院者の権利を擁護する弁護士はLegal Aid NSWから無料で派遣され、入院者は自分の希望を自ら発言するだけでなく、弁護士の助力を得ることができる。弁護士を権利擁護者として利用するサービスは入院者の資力に関わりなく誰もが等しく保障されている。 日本の精神医療審査会の場合、定期の調査は年間約27万件実施され、ほぼすべてが書面審査である。退院請求や処遇改善請求の場合はヒアリングが実施されるが、弁護士が同席するとは限らない。対するニューサウスウェールズ州の場合、非自発的入院は入院者の権利を侵害するものであり、可能な限り最小限とするためのしくみが整っていることが理解できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
やや遅れている理由は、ニューサウスウェールズ州への調査に出向くことができたのが、令和5年2月だったことによる。コロナによる影響は避けがたいものがあった。 現地調査以前にはニューサウスウェールズ州のMental Health Review TribunalとLegal Aid NSWのホームページやAnnual Reportから情報収集を行い、現地調査時の質問項目を精査した。海外出張の目処がたち、各機関に調査を依頼し、了解を得られたのが令和4年12月であった。 現地調査によりTribunalの最高責任者、Legal Aid NSWの所長と実務担当者から詳細な解説を得、また、資料を入手したが、詳細な分析には至っていない。 令和5年度中に分析を進め、学会等で報告を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最優先事項は、ニューサウスウェールズ州で入手した資料の分析である。特に、トライビューナルの運用と、Legal Aid NSWの協力の関係について詳細に理解することを試みたい。 また、本研究は以下2点の目標を掲げている。「非自発的入院患者の権利擁護を実施する各地の精神医療人権センターの実践事例を明らかにし、他都道府県への拡大に向けた示唆を得ること」と、「都道府県の中で10万人あたりの精神科病院数の多い地域(以下、対象地域)に注目し、精神科病院の現況の把握と非自発的入院患者の減少、入院の短期化、第三者による権利擁護者の介入の可能性に向けた方策の検討」である。 本研究の代表者は現在、権利擁護団体を立ち上げ、精神科病院入院者を主な対象とする電話相談と精神科病院への面会活動を開始する予定である。大阪精神医療人権センターが中心となり各地に展開する、権利擁護団体拡大の一つとして設立した。すでに各地で運営されている人権センターとしては東京、兵庫、埼玉、神奈川、長野、岡山がある。一部の人権センター同士はつながりがあり、全国一斉電話相談日の開設や、相互に情報交換する関係性がある。各人権センターの特徴や実績を明らかにし、民間の団体が精神科病院の入院者の権利擁護において果たす役割を明らかにすることが令和5年度の推進目標である。 また、令和4年度の精神保健福祉法改正により新たに「入院者訪問支援事業」が創設された。主に医療保護入院者を対象に、入院者の権利を擁護する第三者であるアドボケイトが精神科病院を訪問する制度である。都道府県等の任意事業であるが、入院者の権利擁護を進める上で重要なものである。今後、各地の人権センターが受託し、事業を展開することが予想されることから、現況調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度はコロナの影響が継続し、一部の学会がZoom開催となったこと、また、前年度で終了する予定の科研費No.18K02113を1年間延長し、海外出張の費用は前述の科研費から捻出したため使用計画よりも大幅に少ない支出となった。 今回、オーストラリアに出張したことで、日本の精神科病院における入院者の権利擁護の課題が浮き彫りになったことから、再度調査に出向くことを検討したい。 したがって、未使用分については令和5年度ないしは遅くとも令和6年度に使用できる見通しである。
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