研究課題/領域番号 |
22K02035
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
井上 靖子 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (00331679)
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研究分担者 |
内田 勇人 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (50213442)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ICT / 児童養護施設 / 養育実践 / ネットリテラシー / 学生ボランティア / 地域心理臨床支援 |
研究実績の概要 |
本年度の業績は、次の3点である。1点目は、昨年度実施したNPO法人に対するインタビュー調査結果をふまえ、児童養護施設4施設に対して、ICT(情報通信技術)の利用実態とICTを活用した養育実践的活用の可能性についてインタビュー調査を実施し、その結果を井上靖子(2024)「児童養護施設におけるICT(情報通信技術)の利用状況と養育実践的活用の可能性についての一考察」兵庫県立大学環境人間学部研究報告書第26号pp.41-50.として論文化した。そこでICTの利用実態として、中学生からスマートフォンを持てる機会をつくる為の経済的支援、職員が日進月歩、進化していくICTの知識や技能に加え、施設で暮らす子ども特有の心の問題を踏まえたICTリテラシー研修の必要性、子どもにもネットリテラシー学習が必要であることを明らかにした。また、ICTの養育実践的活用の課題として、1.子どもの退所後の自己管理能力を高めるための活用、2.職員の効率的な働き方のための活用、3.地域住民に社会的養護を理解し、子育ての拠点としての情報発信や職員募集としての活用、4.施設職員の情緒的サポートとしての活用が挙げられることがわかった。2点目は、1点目の調査結果をふまえて、令和5年度こども・子育て支援事業推進調査研究事業の検討委員会に参加し、「児童養護施設等のICT化による効果的な事務処理のための調査研究」報告書の作成のための討議を行った。3点目は兵庫県立大学環境人間学部エコヒューマン地域連携センター活動・研究報告集に、学生の児童養護施設支援活動実績を井上靖子・田崎大地・天願鈴美(2024)「児童養護施設で暮らす子どもの“あいまいな対象喪失”とその修復」としてまとめた。そこで学生による個別的関わりが子どもの情緒的安定や人間関係改善に貢献ができることを明らかにし、ICTを活用した養育実践にも生かす知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、児童養護施設4施設に対するインタビュー調査を実施し、地域は限定されるが、施設内でのスマートフォンやパソコン等の利用実態、子どもや施設職員のネットリテラシー研修、各施設職員が、施設内での子どもたちのICT利用に関してどのようなトラブルや問題を抱え、どのような要望や今後の方向性を抱いているのかについてインタビュー調査を行い、それを、日本子ども虐待防止学会第29回学術集会滋賀大会でポスター発表を行なった。さらに、井上靖子(2024)「児童養護施設におけるICT(情報通信技術)の利用状況と養育実践的活用の可能性についての一考察」兵庫県立大学環境人間学部研究報告第26号pp.41-50.として論文化できたことである。また、令和5年度こども・子育て支援事業推進調査研究事業の検討委員会に参加し、「児童養護施設等のICT化による効果的な事務処理のための調査研究」報告書の作成のための討議を行うなかで、全国の児童養護施設のICTの利用実態、職員の効率的な働き方を目的とした活用において現場でどのような問題が発生しているのかについて、様々な職種の専門家との間で情報共有をすることができた。さらに、2023年度は、2名の学生が児童養護施設においてボランティア活動を実施し、遊びや学習支援の場面における子どもとの関わりの在り方を事例検討を行った。ICTの活用には至らなかったが、小規模化・地域分散化していく施設の現場で、トラウマへの配慮など子どもとの間により専門的に方向づけられた丁寧な関わりが求められていることが明らかにすることができた。以上、1.児童養護施設4施設を対象としたインタビュー調査の結果を学会発表、論文化したこと、2.令和5年度こども・子育て支援事業推進調査研究事業の検討委員会に生かせたこと、3.学生らのボランティア活動による実践研究成果が得られたことなどが理由である。
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今後の研究の推進方策 |
今後、2023年度の児童養護施設4施設を対象としたインタビュー調査結果をふまえると、子どもらがスマートフォンを所持したり、パソコンを利用することも施設によっては限定されていること、また、子どもに対するネットリテラシー学習だけではなく、施設職員が、日進月歩進化していくICTに関する十分な知識や技能を持てていないこと、そのため施設で暮らす子ども特有の心の問題を踏まえたICTの養育実践的活用のための研修が必要とされていることが明らかとなった。コロナ禍が収束し、施設職員の意識はICTを活用するよりも対面交流を重視する意識が強いこともわかった。そのため、ICTを用いたボランティア活動を実践的に開発することが難しい状況にある。そこで、2023年度のインタビュー調査で得られた内容をもとに、2024年度は、全国の児童養護施設を対象としたICTの養育実践的活用の現状と課題を明らかにする予定である。内容としては、子どもにスマートフォンやパソコンの利用についての意識、ICT活用によって生じるトラブルへの対応、施設職員や子どもに対してネットリテラシー研修の実態、今後の養育実践的活用の展望について取りあげ、質問紙による調査を行う予定である。研究報告集を作成し、また、ホームページ等で公開できるよう考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
児童養護施設におけるICT(情報通信技術)に関する先行研究が乏しく、当初の研究計画どおりに進められなかったためである。そこで、2023年度は、児童養護施設におけるICT(情報通信技術)の利用状況や養育実践的活用に関する実態を把握し、全国における質問紙調査を行うための必要な情報収集を目的とした調査として、児童養護施設4施設を対象としたインタビュー調査を行なった。地域を限定したインタビュー調査であったため、謝金等に関して予定していた全国調査と比べて経費がかからずに実施できた。2023年度に実施したインタビュー調査の結果については、井上靖子(2024)「児童養護施設におけるICT(情報通信技術)の利用状況と養育実践的活用の可能性についての一考察」兵庫県立大学環境人間学部研究報告第26号pp.41-50にまとめている。2024年度は、この結果をもとにして、全国の児童養護施設を対象とした質問紙調査を行なう予定を立てており、2023年度に繰り越した費用を2024年度に使用する予定にしている。
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