研究課題/領域番号 |
22K02065
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研究機関 | 岩手県立大学 |
研究代表者 |
三上 邦彦 岩手県立大学, 社会福祉学部, 教授 (20381311)
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研究分担者 |
山崎 陽史 岩手県立大学, 社会福祉学部, 助教 (10594062)
狩野 俊介 岩手県立大学, 社会福祉学部, 講師 (40838695)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マルトリートメント / クライシス・プラン / 意思決定支援 |
研究実績の概要 |
本研究は、マルトリートメント防止のための在宅支援として適切な養育(安定した状態)から児童虐待(悪化した状態)までを連続的に捉え、その状況に応じた支援介入を実施できるクライシス・プランを応用した支援プログラムを試作することである。 令和4年度は、在宅支援の実態とクライシス・プランの実践のための視点と方法に関する調査の前段階として、マルトリートメントの先行研究の整理およびマルトリートメント事例の在宅支援における実態とニーズについて研究協力者から意見を求め、児童相談所・市町村それぞれの機関の機能に基づくマルトリートメント防止のための在宅支援の意識や課題および在宅支援にクライシス・プランを活用することの情報共有を行った。 その結果、児童相談所児童福祉司のマルトリートメントケースにおける関わりはどのようになされるか、保護者の児童相談所に対する反応パターンはどのようなものか、保護者が拒否的な場合にはどのようにかかわるか、他機関への支援依頼のパターン、児童相談所の介入のタイミング、市町村のマルトリートメント・ケースにおける在宅支援の有無などの実情について確認した。 さらに、保護者・子どもの意思を尊重する児童相談所の関わりはされているか、支援のゴール設定と保護者の自己決定の重要性、意思決定支援ツールの活用について、虐待のリスクの対する児童相談所の判断と方針、マルトリートメントケースへの在宅支援と支援計画、子どもが安全に生活するためのリスクの特定について、具体的なクライシス・プラン活用の必要性、児童相談所職員の自己決定を尊重する「かかわり」プロセスの児童福祉司への活用の可能性等について検討した。 特に、マルトリートメント防止のための在宅支援において、意思決定支援の枠組みをもとに ソーシャルワーカーによるクライエントの自己決定を尊重した「かかわり」を具現化する作業仮説を示すことの重要性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の現在までの進捗状況については、マルトリートメント事例の在宅支援における実態とニーズについて研究協力者から意見聴取およびマルトリートメントにかかわる国内外の先行研究も整理し、子どもマルトリートメントの捉え方や概念、実践的枠組みの検討を行ってきた。 その結果、第一には、マルトリートメントの捉え方として、生物学的、社会的、文化的、経済的、環境的な要素が様々に相互作用し、子どもマルトリートメントに影響を与えていることである。そして、個人レベルの要因は、子供ではなく親や他の大人に関連しているが、子どもの行動上の問題、行動障害、障害のある子どもにとってマルトリートメントのリスクが高くなる可能性があることを確認できた。 第二に、子どもマルトリートメントは、コミュニティの中で家族が孤立していることが一般的である傾向がみられる。このため地域の中で、「ソーシャルキャピタル」(社会的相互作用を形作る制度の利用、関係性、規範性)が欠けている可能性があると考えられる。 それゆえ、マルトリートメントを行う家族には、子どもの体罰許容性や受容性、不適当な子どものケアや生活スタイルが慢性的で継続的かつ連続あるいは不連続的に存在しており、子どもや家族に対する支援に結びついていっておらず、子どもマルトリートメントを深刻化させる可能性があることが確認した。 一方、マルトリートメントケースへ在宅支援を行う際、親子間の強い関係性(すなわち子どもは親に依存しなければ生存できない)、子どもの発達を十分に理解している親、課題に直面して対応する親の能力(回復力)、強力な社会的支援、子供の感情的および社会的能力が含まれると考えられた。 そしてこれらの「支援要因」を促進するプログラムを開発するには、「意思決定支援」を前提としたクライシス・プランの活用が重要であることを確認し、本格的なインタビュー調査等に向け準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度においては、市町村の子ども家庭相談および児童相談所の児童虐待相談におけるマルトリートメントに対する在宅支援の現状を把握し,その支援状況においてCPを活用することを想定した場合の課題を明らかにする。また、児童相談所は児童虐待ケースにおいて親子が地域生活を継続できるように危機に対して早期に対応するような認識が強く、市町村は地域生活を支援する上で養育状況の悪化に不安を感じ、速やかな一時保護対応を求める認識が強く存在していると考えられる。 それゆえ、それぞれの機関の機能に基づくマルトリートメント防止の在宅支援の意識や実践の現状からCPを活用する意識の差異についても検討する。 具体的には、「児童相談所と市町村の在宅支援におけるクライシス・プラン活用に関する調査」を行う。 調査方法については、インタビュー調査により、①市町村、児童相談所でマルトリートメントケースにおける在宅支援で、困っていること。②クライシス・プランを使用することで、マルトリートメントの状況が低減すること。③クライシス・プランを作成する上で、どういうことを計画すると良いか、④マルトリートメントケースの支援の困難さに対して、⑤クライシス・プランの有用性、⑥マルトリートメントケースに対して、クライシス・プランを運用していくうえでどのようにしていけばよいかなど、クライシス・プランを応用することの可能性についても調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度の使用計画では、児童相談所の児童福祉司と市町村の子ども家庭における在宅支援に携わる職員を対象に、マルトリートメント事例の在宅支援における実態とニーズについて質的調査を行う前提として、児童相談所の児童福祉司の経験のある研究協力者から、マルトリートメント防止のための在宅支援の意識や課題についての意見聴取を行ったが、小規模での取り組みとなったことにより次年度使用額が生じた。 令和5年度、インタビュー調査等を本格実施するため、調査依頼にかかる郵送料、調査協力者する旅費、謝金などの不足分に対応するため、次年度請求した助成金のあわせて使用計画に盛り込む必要がある。
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