研究課題/領域番号 |
22K02133
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
池本 敦 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (60295615)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アケビ種子油 / アセチル基含有油脂 / 1,2-ジアシルグリセロ-3-アセテート / リパーゼ / 遊離脂肪酸 / リポタンパク質 |
研究実績の概要 |
秋田の伝統的食用油として利用されていた歴史のあるアケビ種子油は、主成分が1,2-ジアシルグリセロ-3-アセテート(DAGA)であり、天然では稀なアセチル基含有油脂であることを見出した。これまでの研究で、1,2-DAGAはリパーゼで分解されにくいために消化吸収率が低く、体脂肪が付きにくく太りにくい特性を有していることが明らかになった。同様の性質を人工合成した1,3-ジアシルグリセロ-2-アセテート(1,3-DAGA)が有することも分かり、アセチル基含有油脂は肥満予防に有用であることが分かった。しかし、小腸における消化・吸収や代謝特性は不明である。 アケビ種子油の主成分であるDAGAはリパーゼで加水分解される速度がTGの約半分であり、消化分解されにくいために小腸における吸収効率が低いことが想定されている。そこで本年度は、ヒト結腸ガン由来Caco-2細胞株を用いて、脂質の消化・吸収過程を測定する実験系を検討した。培地にトリアシルグリセロール(TG)を添加した場合と比較して、DAGAを添加した場合は、リパーゼにより生成する遊離脂肪酸(FFA)の量が顕著に低かった。生成したFFAは細胞に取り込まれ、細胞内でTGに再合成された後、リポタンパク質に組み込まれて基底膜側に分泌される。この分泌されるTG量は、腸管腔側にTGを添加した場合と比較して、DAGAを添加した場合では顕著に低い値を示した。以上のように、DAGAはリパーゼにより消化されにくく、吸収後に小腸上皮細胞から分泌されるTG量も低くなることが培養細胞系で示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト結腸ガン由来Caco-2細胞株を用いて、培養細胞モデルで脂質の消化・吸収過程を測定する実験系を確立することを最初に行った。3μmのポアサイズのフィルター上に細胞を培養し、カップの底に埋め込んで腸管腔側(Apical, A)と基底膜側(Basolateral, B)の培地が区別できる装置を用いた。TGやDAGAなどの脂質とその消化酵素である膵リパーゼを培地に溶解し、腸管腔側に添加した。これらの条件で、安定的に細胞が培養でき、基底膜側に分泌される脂質を測定できる実験系を確立した。 この実験系を用いて、アケビ種子油の主成分であるDAGAと通常の食用油脂であるTGを比較して、消化酵素であるリパーゼによる加水分解過程や小腸上皮細胞への吸収、腸管腔側への分泌を総合的に解析することができ、当初計画していた研究を順調に遂行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
培養細胞系を用いたDAGAの代謝解析では、ヒト肝臓培養細胞モデルを用いて、DAGAがどのように細胞に取り込まれ、どのような構造で蓄積するのかを解析する。さらに、細胞の脂質代謝に及ぼす影響を調べる。得られた知見を生かしながら、DAGAの新たな生理機能を探索する。各種酵素への影響や細胞レベルの遺伝子発現パターンに及ぼす影響などを解析し、DAGAの新たな機能性を見出す。 また、動物実験によるDAGAの機能性の解析では、ラットを用いた動物実験によって、経口投与したDAGAがどのような形で血中へ移行し、どのような臓器・組織に分布するのか解析し、アセチル基含有油脂の体内動態を明らかにする。マウスを用いた動物実験によって、脂質源としてDAGAを添加した飼料を長期摂取させ際の臓器・組織への蓄積や生化学的パラメータに及ぼす影響を解析し、アセチル基含有油脂の安全性と有効性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費について、研究に使用するアケビ種子油を製造するための中型搾油機を購入する予定であったが、既存の小型搾油機で代用できたため、購入しなかった。また、旅費については、学会へ出席するための交通費が近隣県で開催されたため半額で済んだ。 一方で脂質を分析するガスクロマトグラフィーが故障したため、研究の遂行のために修理経費が予定外にかかった。そのため差し引き40万円を次年度の実験経費として使用する計画に改めた。 次年度は新たな細胞株の導入と動物実験のために、初年度以上に物品費を要することが見込まれており、前年度の繰越金を使用して効率的に研究を遂行する計画である。
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