研究課題/領域番号 |
22K02153
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
安川 あけみ 弘前大学, 教育学部, 教授 (70243285)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | UVカット / アパタイト / 亜鉛 / チタン / 布加工 |
研究実績の概要 |
太陽から地球に届く光のうち,波長400 nm以下が紫外線(UV)であるが,波長によりUVC(-280 nm), UVB(280-320 nm),UVA(320-400 nm)に分類される。UVCは我々のDNAに影響を与え極めて有害だが,オゾン層に吸収されて地表にはほぼ到達しない。UVBは,UVCほどではないにせよ,皮膚ガン,白内障など与える害は重大だが,地表に到達するUVの数%であり,我々が浴びるUVのほとんどはUVAであると言える。しかし,UVAも比較的軽微ながら皮膚の老化や日焼け等の影響がある。したがって我々は,浴びる量は少ないが影響が重大なUVBと,影響は比較的軽いが浴びる量の多いUVAを防御する必要があると言える。環境や生体に安全でイオン交換性の高いカルシウムヒドロキシアパタイト(CaHap)を基本とし,Caの一部を他の陽イオンと交換した固溶体粒子の合成において,UV吸収能を持つ陽イオンを用いることにより,UVカット性を持つ粒子を作ることができると考えた。これまでの研究から,UVBをよく吸収する物質としてチタン(Ti)を,UVAをよく吸収する物質としてセリウム(Ce)を見出した。TiやCeを含有するヒドロキシアパタイト固溶体,TiCaHap,CeCaHapならびにTiCeCaHap粒子を合成し,UV吸収能を比較してきた。このうち,Ceはレアアースの一種であり,電子部品の研磨剤,蛍光体,触媒など他の用途があるので,ベースメタルでUVAを吸収するものはないかと考え,本研究では亜鉛(Zn)を取り上げることにした。1年目は陽イオンサイトにおけるZnとCaの比率がZn/(Zn+Ca)=0-1の種々のZn含有アパタイト粒子(ZnCaHap)を合成し,純粋なHap結晶相が得られる条件と得られた粒子のUV吸収能を調べ,粒子中のZn含有量の最適条件を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,UVAとUVBに亘る広い波長の紫外線を吸収する無機微粒子を新規に合成し,得られた粒子を布に担持し,布のUVカット加工を施すことである。その第一段階として1年目は,湿式法によりZn/(Zn+Ca)=0-1の種々の亜鉛-カルシウムヒドロキシアパタイト(ZnCaHap)固溶体粒子を合成し,XRDにより結晶性を,FE-SEMにより形態を,UV-visによりUV吸収能を調べた。成果として,Zn/(Zn+Ca)=0.2以下で純粋なHap固溶体が得られるが,それよりZn含有量が多くなると,アパタイト以外の結晶相との混合物になることがわかった。一連の粒子のUV吸収能は,Zn含有量が増加するとともに向上し,Zn/(Zn+Ca)=0.30で最高値を示したが,それ以上Znを含有すると低下することがわかった。Zn含有Hap固溶体粒子がUVAを吸収することが確認できたことは,本研究の順調な進行状況を示していると言える。今後,UVBをよく吸収するTiも含有するトリプル・カチオンアパタイト粒子,チタン-亜鉛-カルシウムヒドロキシアパタイト(TiZnCaHap)の合成の段階に進むが,その際に重要なZnの最適な含有量の情報が得られたと言える。また,1年目で得られたZnCaHap粒子の大きさと形態は,これまでの研究で布への担持に適していることがわかっているナノメートルオーダーの粒子であり,布のUVカット加工への準備も順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1年目で合成したZnCaHap固溶体の結果を元に,3種類の陽イオンを含有するTiZnCaHap固溶体粒子を合成し,純粋なHap固溶体が得られる条件を調べる。得られた粒子のうち,純粋なTiZnCaHap粒子についてUV吸収能を調べ,布のUVカット加工に用いるのに最適なTi,ZnならびにCaの含有比率を決定する。また,夏物衣料の代表である綿布を基質として,選択した粒子を振とう法により担持し,布のUVカット加工を行う。担持条件を変えながら加工前後の布のUVカット性能を比較し,分散媒,分散液濃度,温度,時間等の最適な担持条件を見出す。さらに,粒子担持布の洗浄試験を反復して行い,UVカット性能の保持力を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
学内の共同機器分析センターでの機器使用料に関して,使用料の値上げの可能性を告げられていたが,従来の単価での使用が可能であったこと,加えて,予定していたサンプルよりも数がいくらか少なくて済んだために費用が抑えられた。成果発表と情報収集のための学会出張旅費については,COVID-19の感染拡大収束を見込んで対面開催として予算計上していたが,すべてオンライン開催となったため,費用が抑えられたものである。 また使用計画は以下のとおりである。共同機器分析センターに設置の粉末X線回折(XRD),電解放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM),エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を利用して,合成した粒子の結晶構造,形態,表面組成などの構造や,粒子担持前後の布の形態や表面組成を調べることや,青森県産業技術センターの示差熱分析装置(TG-DTA)を利用して,粒子および布の熱的性質を調べることには,すべて使用時間当たりの使用料が必要である。このため,2022年度に費用を押さえられた分,2023年度以降,多くのサンプル測定を行うための費用にあてる予定である。
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