研究課題/領域番号 |
22K02226
|
研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
石島 恵美子 茨城大学, 教育学部, 教授 (10736325)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 問題解決型調理実習 / 問題解決型学習 / 調理実習 / 消費者市民社会 / 消費者教育 / 家庭科 / SDGs / 教師教育 |
研究実績の概要 |
本研究は、高等学校家庭科における調理実習の新たな可能性を検討するために、消費者市民の資質の育成に関して注目した。具体的には、「問題解決型調理実習」を計画・実践できる教員を養成するために、実効性のある家庭科教師教育プログラムを構築し、その有効性を理論的・実証的に明らかにすることを目的とした。3年間に及ぶ本研究の1年目にあたる今年度は、以下の三点に関して研究を進めた。 一点目は、プログラムの基盤となる「問題解決型調理実習」における消費者市民としての意識と行動性両面の向上に対する有効性についての教員意識調査であった。具体的には、高校家庭科教員の問題解決型調理実習プログラムに対する意識構造と影響要因を明確にするために質問紙調査を実施した。調査対象者の選定および質問項目の作成は、高等学校家庭科教員を対象とした研修会にて収集した参加者の意見から検討した。 二点目は、問題解決型調理実習の可能性と課題の検討である。家庭科教員が問題解決型調理実習を導入する際に、モデルとなるプログラムを構築し、問題解決型調理実習プログラムの構造を紐解いた。具体的には、自身が開発・運営に関わったフェアトレード学習プログラムの実践について量的・質的分析により検討した。その結果、フェアトレード学習の学習効果はフェアトレード商品購買意欲の向上のみならず、自身の学びを周囲に伝えることの行動性の向上においても有効であることが明らかとなった。そこで、問題解決型調理実習を取り入れたプログラムに本研究で得た知見を加え、新たなプログラムを構築することとなった。 三点目は、家庭科教員が問題解決型調理実習を導入する際にモデルとなるプログラムの学習内容についての探究である。具体的には、郷土料理などの生活文化を交えた単元を作成するために、茨城県の生活文化や食品ロスにつながる地域課題などについて、調査・研究を実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの進捗状況に関しては、「やや遅れている」という判断をせざるをえない。理由は、問題解決型調理実習の具体的な運用場面を、先進的取り組みが進むフィンランド、デンマーク等において確認できなかったためである。また、改良が加えられた新たなモデルを、十分に実施できなかったためである。いずれも、新型コロナウイルス感染症の拡大に起因する、国内外における行動制限に影響されたものである。 しかし本研究では、そのような困難状況でもできることを模索しつつ研究を進めた。具体的には、新型コロナウイルス感染症の拡大期でも実施することが可能な1人調理を生かした調理実習プログラムがあげられる。教育実践研究をしたことで、問題解決型調理実習における1人調理の有効性と学習者の学びのプロセスについて検討するに至った。この結果については、当該学会で研究発表も行っており、論文化も進んでいる。次年度に向けてより多角的な視点を持った問題解決型調理実習の研究を本格化できるような基盤づくりは十分に行うことができたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、当初の計画通りに進めることができる。新型コロナウイルス感染症の影響で、現地の高校での問題解決型調理実習プログラムの調査が叶わない場合でも、オンラインで現地と連絡を取ったり、また、計画に一部修正を加えたりして、研究方策を練ることによって研究を前進させることは可能である。 令和5年度(研究2年目)には、令和4年度に選定をした対象者に質問紙調査とインタビュー調査を実施し、量的・質的分析から高校家庭科教員の問題解決型調理実習に対する意識構造と影響要因を明確にする。また、問題解決型調理実習プログラムを複数の高等学校に対して実施し、さらに問題解決型調理実習の指導方法の点について洗練化させる。 令和6年度(研究の3年目)には、これまでの研究に基づき、教育理論と授業実践を取り込んだ「教師教育プログラム」を構築する。「教師教育プログラム」を、教員研修や大学の教員養成課程で実践し、その効果を検証する。得られたデータに基づいて、当該プログラムの改良を行うことを計画している。家庭科教師教育に導入可能な、より一般性の高いプログラムの開発を目指す。その指導法と共に国内外に向けて積極的に発信する。当該年度における本研究は、家庭科教育の発展のみならず、国連が掲げるSDGs(Sustainable Development Goals)の実現に向けて、グローバルな現代課題の解決に資することを念頭に置き、位置付けることも大きな行動目標となる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
海外旅費(フィンランド、デンマークへの現地実態調査)と国内旅費(学校訪問によるインタビュー調査)を、新型コロナウイルス感染症の影響で実現できなかったために、旅費の執行を行えなかったことが、次年度使用額が生じた最大の理由である。令和5年度に国内外の移動が可能となれば、この次年度使用額を有効に活用して、国内外の現地における対面調査を行う予定である。また、同じく物品費にて、研究資料を購入することにより、研究を充実させることも検討する。 いずれにしても、次年度使用額として多くの配分額が残っていることは事実であるので、早急な執行を目指して、使用計画を再検討することとする。
|