研究課題/領域番号 |
22K02263
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研究機関 | 石巻専修大学 |
研究代表者 |
新福 悦郎 石巻専修大学, 人間学部, 教授 (20734122)
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研究分担者 |
蜂須賀 洋一 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (20824238)
萩原 和孝 第一工科大学, 工学部, 講師 (70649558)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | パワー・ハラスメント / 判決書教材開発 / 管理職 / 安全配慮義務 |
研究実績の概要 |
本年度は、「学校安全」や「安全配慮義務」の射程を、「子どもの生命・安全を守るため」だけではなく、「教職員の生命・安全を守るため」という視点も含むものとして広く捉え、教職員同士のパワー・ハラスメント(以下、「パワハラ」)をめぐる判決書(仙台高裁令和 3 年2月10日判決)を取り上げ、判決書教材を活用した教員養成プログラムの可能性について研究を進めた。 活用した仙台高裁判決の事例は、日常的に後輩教員を呼び捨てにして、まるで親分が子分に命令するような態度を取っていた先輩教員が、自分の意図した行動を取らなかった後輩教員に対して約20分間にわたり、詰問的な口調で注意し(後輩教員はそれ以前にも同様な「注意」をされ、自殺を図っていた)、翌日、後輩教員が自殺したものである。先輩教員の「注意」は、「業務上必要かつ相当な範囲を超えるものとして、不法行為法上違法」とされ、管理職である校長らに対しては、2人の「接触する機会を減らす措置を講じる義務を負っていたにもかかわらず、これを怠った」とされ、後輩教員の「心理的負荷等が過度に蓄積してその心身の健康を損なうことがないよう注意する義務に違反したものと認めるのが相当」と判断された。 教職を目指す学生も漠然と「パワハラは良くない」と考えていると思われるが、実際に学校現場においても残念ながらパワハラが存在していた(している)事実を知り、パワハラ被害を受けている同僚がいたらどうすべきなのか、自分がパワハラの被害を受けたらどうすべきか、自分がパワハラの加害者とならないためには何を気をつけなければならないのか、学校におけるパワハラについての安全配慮義務とは具体的にはどのような措置を指すのか、そして、誰にその責任があるのかなどについて、判決書に書かれた具体的な事例や裁判所の判断をもとに、考え、学べる判決書教材およびプログラムの開発に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、自然災害との関連から大川小学校仙台高裁判決書を活用して高度な安全配慮義務について考察し、教材の開発と授業・研修プログラムを検討した。昨年度は、パワー・ハラスメントに範囲を広げ、教職員同士のパワー・ハラスメント(以下、「パワハラ」)をめぐる判決書(仙台高裁令和 3 年2月10日判決)を取り上げ、判決書教材を活用した教員養成プログラムの可能性について研究を進めた。ともに、安全配慮義務に関連して、学校教師にとって高度なものになってきている状況を明らかにすることができた。 初年度については、教員養成の授業で実際に教材を活用し、その感想を分類分析して、開発した教材とプログラムの効果を明らかにすることができた。2年目については、教材開発とプログラム開発の段階で終わったが、次年度以降につながるものであったと考える。 以上の成果から、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、2年目に開発した教職員同士のパワー・ハラスメント(以下、「パワハラ」)をめぐる判決書(仙台高裁令和 3 年2月10日判決)を取り上げ、判決書教材を活用した教員養成プログラムを実際の教員養成の授業で行い、感想文をもとにして、その成果を分類・分析していきたい。 さらに、新しいテーマとして求償権をめぐる裁判を取り上げ、高度な安全配慮義務について考察できる判決書教材の開発とプログラム開発を進めていく。具体的には、大分県立高校生熱中症死亡「求償権」判決を教材化し、教員養成および教員研修用にプログラム開発する準備を進めている。 しかし、「求償権」をめぐる裁判は、教員の教育活動を萎縮させる要素もあり、高度な安全配慮義務としての法的理解を深めるという趣旨で研修プログラムは準備して行きたいと考えている。 さらに、これまで進めてきた学校における安全配慮義務に関する判決書をLaw-1をもとにして、データベース化を図り、教員の学校教育活動における取り組みの法的理解をさらに深化させる手立てを考えていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
学内の校務が多忙になり、本研究テーマに充てる時間確保が少なくなったことと、昨年度は主にLaw-1検索を通して、整理分析する作業が研究の中心となり、調査活動において、出張や物品費の購入に充てる機会や場面が少なかった。 同時に、次年度の国内研修が決定し、その時期に集中的に研究費の配分を重点的に行っていこうと考えたためである。
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