研究課題/領域番号 |
22K02274
|
研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
鄭 修娟 九州産業大学, 国際文化学部, 講師 (10882897)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 教員労働組合 / 専門職教員団体 / 団体交渉 / 教育自治 |
研究実績の概要 |
今年度は現地(ソウル)でのインタビュー調査とともに、日本国内では入手できない貴重な保存資料を収集する等、団体交渉の機能を検討するための基礎的作業が可能であった。調査の結果は、全国学会にて発表し、そこからさらに議論を深め、学術論文として執筆した。 まず、韓国での現地調査を実施し、教員労組と教育行政が行っている団体交渉の実際に迫ることができた。主に労働法学の観点から、団体交渉のプロセスから見えてくる教育行政へのけん制機能と、教育問題全般にかかわる話し合いを通じた「教育自治」の可能性について明らかにした。この点は、本研究の当初の目的の一つでもあった。 次に、教育自治の側面から団体交渉がもつ潜在的機能を確認した。教育自治に関する韓国国内の先行研究では、2010年以降の教育監直選制が実施されて以来、「強い教育監」へのけん制装置が不十分であることが指摘されてきたが、インタビュー調査と入手した資料の分析から、教員労組との団体交渉の場が、教育行政へのけん制機能を果たしうることが垣間見えてきた。団体交渉の内容も、単に教員の処遇改善をめぐる問題のみならず、広く地域の教育問題について話し合いが行われており、教育政策を協議する場にて教員労組が「教育の専門家」として位置づいていた。 第三に、教員の勤務環境と関連しても示唆的な部分が多くみられた。勤務時間の上限設定やチェック体制の構築ではなく、実質的な業務量の減少に焦点が当てられており、たとえば、教科書の配布作業や学校の備品管理、会計・予算関連業務、非常勤講師の採用関連業務等、非常に細かい部分まで踏み込み、そこを事務職員や支援スタッフとどのように分け合うのか、そこで行政が果たすべき役割は何かについて労組と行政の間で詳しく議論がなされている。 以上のような調査結果は、日本における教員の働き方改革とも関連して示唆を与えうる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は韓国への渡航調査を実施し、その成果を関連学会・研究会にて発表するとともに、学術論文として執筆した。 まず、教員労組関係者へのインタビューと国内では入手できない資料を収集し、団体交渉のプロセスと実態に迫ることができた。特に、議事録の分析を通じて、教育監も交えて定期的な協議会が行われ、行政へのけん制のみならず連携も図りつつ、教育改革の質を変革しようとする努力がなされていることがうかがえた。この点は、本研究の目的である、団体交渉を通じた「教育自治」の実現可能性ともかかわる。 次に、渡航調査を通じて、韓国における教員制度・政策の最新動向も把握することができた。韓国では、近年、校内暴力や教師の自殺事件等、一連の経験を通じて、それを単なる保護者との対抗図式で矮小化するのではなく、教師の「教育権」や「生存権」保障と関連づけて議論し、多様な市民団体・保護者団体とも連携して自主的な集会を実施したり、関連する法制度の立案・改正に向けて活動を広げたりしている。今年度の現地調査ではこのようにダイナミックな韓国の教育改革をめぐる動きも把握することができた。 多様な研究会での発表の機会もあり、以上の調査結果を韓国研究の専門家たちとも共有し、今後の展望、課題、可能性を議論することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、引き続き韓国の教員団体の活動・運動について追跡調査を実施するとともに、日本との比較を計画している。 最終年度には、韓国のみならず、日本の教員団体の活動にも目を向け、韓国との比較調査を実施する予定である。法規上では韓国の専門職教員団体と同様に、教育行政との「交渉・協議」の権利が保障されているものの、その手続き、内容、参加メンバー、交渉結果の履行状況等と関連して両国でかなり異なる部分もある。韓国との違い、共通点は何かを分析し、そこから見えてくる日本の「教育自治」の可能性と課題を論じる。 調査結果は、日韓の学会にて発表し、学術論文また報告書を発行してまとめる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
8月から11月ごろまで、韓国国内で大規模な教師集会、教員法改正等が行われ、教員労組や現職教員とのインタビュー・研究会を行うことが難しく、当初予定していた韓国出張をすべて実施することができなかった。なお、計画していた国内調査(北海道、高知等)も本務校の業務との関係でかなわなかったため、執行予定であった今年度の旅費を、次年度に処理したい。 次年度も引き続き、韓国への渡航調査と日本国内の調査を予定している。また日韓の専門学会にて学術成果を発表するため、旅費が必要である。最終年度における成果報告書の発行も予定しており、そのための消耗品費及び印刷業者への謝金等が必要となる。
|