本研究は、1950年代後半から60年代にかけて日本各地の学校で展開された、ことばなおし運動(ことばを良くする標準語・共通語教育運動)とその実践の歴史的意味の解明を目的とするものである。2022年度は、ことばなおし運動の発祥とされる神奈川県鎌倉市立腰越小学校のネサヨ運動(「そんでネー」「そんでサー」「そんでヨー」のような語尾のネ・サ・ヨの禁止に象徴されることばなおし運動)の背景や実践について、次のような調査研究を行った。 (1)臨床・社会言語学の先行研究をはじめ、岩本富貴栄執筆編集『続鎌倉教育史』(鎌倉市教育委員会、1992年)、NHK放送文化研究所監修『NHK 21世紀に残したいふるさと日本のことば』第2巻・関東地方(学習研究社、2005年)、清田昌広『かまくら今昔抄60話』(冬花社、2007年)等において、ネサヨ運動がどのように説明されているのかを整理し、今後さらに明らかにすべき課題を整理した。 (2)戦前から戦後にかけての腰越(腰越町→鎌倉市腰越地区)の地域的変容を捉えるため、鎌倉市中央図書館ないし国会図書館において『鎌倉市勢要覧』、『鎌倉の統計』、『神奈川県統計書』等を調査し、腰越の人口推移や産業構造の変化について考察した。高度経済成長期に入る頃には、腰越は住宅地化の進行と水産業の衰微という変動期にあったことが確認できた。 (3)鎌倉市中央図書館所蔵の腰越小学校の研究報告書や記念誌・記念文集などを調査収集し、ことばの船出、ネサヨ人形やネサヨ祭りといった、ネサヨ運動におけることばの実践の内容や方法について検討した。 (4)鎌倉市中央図書館所蔵の腰越婦人会『婦人会報』に基づき、地域の女性たちのネサヨ運動への意識や関わりを調査した。青少年の「善導」とことばなおしへの婦人会のバックアップ、そして東京オリンピックを背景とした腰越の地域環境の浄化とことばなおしとの関連性が示唆された。
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