本研究は、1950年代後半から60年代にかけて日本各地の学校で展開された、ことばなおし運動(ことばを良くする標準語・共通語教育運動)とその実践の歴史的意味の解明を目的とするものである。2023年度は、前年度に引き続き、神奈川県鎌倉市立腰越小学校のネサヨ運動を対象とするとともに、本運動のチェーン校だった大阪市立諏訪小学校のことばなおしにも対象を広げ、次のような調査研究を行った。 (1)腰越小学校を訪問し、ネサヨ運動関係の所蔵資料調査を実施した。腰越小作成のことばの教育に関する第一次資料の収集をはじめ、所在不明であった16ミリ映画フィルム『ネサヨ人形』(1961年)の修復・クリーニングおよびデジタル化の作業を行った。急遽、映画フィルムにかかわる費用が発生したため、2025年度の交付予定額から前倒し支払い請求を行った。本調査により、腰越小の草創期の国語学習とくらしのことば研究の様相が浮かび上がった。また、映画フィルムに描かれた学校の期待、地域・保護者へのメッセージ性を読み取ることができた。 (2)神奈川県立総合教育センターにおいて、腰越小や鎌倉市立中央図書館に所蔵がなかったネサヨ運動関係資料の撮影を行った。あわせて、腰越中学校の「です・ますレッスン」にかかわる資料の撮影も行った。小中学校を含めた腰越地区のことばなおしの取り組みの広がりをうかがうことができた。 (3)大阪市立中央図書館および大阪府立中之島図書館において、諏訪小学校の「おはよう運動」が生み出された地域的背景について資料調査を実施した。学校沿革誌や諏訪小の所在地であった城東区の地域関係資料などを閲覧し、高度経済成長期の公営住宅建設や児童数の増加をはじめ、地域をとりまく変容を捉えることができた。
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