研究課題/領域番号 |
22K02341
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
伊藤 亜希子 福岡大学, 人文学部, 准教授 (70570266)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | インターセクショナリティ / 異文化間教育 / 権力 / カテゴリー |
研究実績の概要 |
本研究はインターセクショナリティを分析ツールとして導入しているドイツの異文化間教育学における議論を参照し、権力関係や構造的差別の分析が今日の異文化間教育の研究・政策・実践にいかに影響を及ぼし、それぞれの議論を深化させ、構造的差別の是正を目指しているのか解明することを目的とする。 初年度である2022年度は、本研究課題に関わる研究・政策・実践について広く文献収集をするとともに、インターセクショナリティを分析ツールとした際のカテゴリーの問題について文献研究を行い、異文化間教育学会第43回大会(於立命館大学)で発表を行った。インターセクショナリティを分析視点とした際の多層レベルの分析モデル(Winker & Degele 2009)、他者化のプロセスから検討する分析モデル(Riegel 2016)を取り上げ、その共通点としてマクロ、メゾ、ミクロレベルを往還しながら権力や支配関係を明らかにすることが挙げられた。また、異文化間教育の課題として、カテゴリーへの自己批判とその更新、カテゴリーの放棄ではなく、専門知がカテゴリーに与える影響への自覚が見いだされた。しかしながら、こうしたカテゴリーの問いがいかに政策に反映されたり、さらなる研究への波及効果があるのかという点までは検討できなかったため、次年度の課題としたい。 本研究の基盤となっているのは、2019~2022年度の科研費研究(19K02577)である。その枠組みで、2023年3月にブレーメン大学での研究交流とドイツ教育学会異文化間・国際比較教育部門2023年大会に参加した。そこで、これまでのドイツにおける異文化間教育を批判的に問い直す議論が確認された。これは本研究の遂行に大きく関わり、次年度の研究の足がかりが得られたとともに、移民に加え、人種やジェンダー、セクシュアリティなど異文化間教育を捉え直す視角を広げる必然性も確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、新型コロナウイルス感染症による規制は緩和されたものの、当初予定していた現地調査については時期の設定が難しく、インターセクショナリティ研究に関する現地調査は叶わなかった。しかしながら、本研究課題に関わる研究、政策、実践の基礎的文献の収集を進め、とりわけインターセクショナリティを分析視点とした研究に関する文献調査に集中することができ、初年度から学会発表を行うことができた。インターセクショナリティを分析視点とする際、カテゴリーの設定が課題となるが、そのカテゴリーは他者の表象とも関わっている。この視点からも研究発表を行うことができたため、おおむね順調に研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、当初予定していた文献研究及び現地調査に加え、2022年度の研究成果を踏まえ、研究の視角を広げ、以下の通り進めていく。 第一に、政策については、2013年異文化間教育勧告のフォローアップについて政策文書の分析及び州レベルにおける特徴的な教育政策的措置について整理し、それを踏まえ現地調査を行う。 第二に、実践については、異文化間の学校開発を出発点に多様性を包摂する学校開発や教師教育について、引き続き資料収集を行い、現地調査を実施する。当初の計画では、異文化間の学校開発を主眼に置いていたが、2022年度に得られた知見から、移民の文化的背景によりもたらされる「異文化」のみに着眼した学校開発ではなく、それを含みつつも、ジェンダー、セクシュアリティなども視野に入れた多様性を包摂する学校開発及び教師教育に着目したい。 このように、移民の文化的背景のみならず、ジェンダーやセクシュアリティにまで視野を広げることは、インターセクショナリティを視点とする上では、そして異文化間教育の学際性を踏まえるのであれば、必然となる。そのため、第三に、移民社会ドイツにおいて差異を巡るインターセクショナルな議論がどのように展開されているのか、異文化間教育のみならず、関連領域(人種、ジェンダー、セクシュアリティ等)にも着目し、文献研究を進める。 以上について、異文化間教育学会や日本比較教育学会等での発表、所属機関の研究紀要や学会紀要への論文投稿を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、規制が緩和されたものの新型コロナウイルス感染症の影響を受け、現地調査のための渡航時期の設定が制限されたことが予算執行に大きく影響し、次年度使用額が発生した。状況が大きく改善されていることから、次年度は今年度予定していたインターセクショナリティ研究に関わる現地調査も実施する。さらに、申請当初に2023年度に予定していた文献収集・現地調査に加え、国内外の学会に参加し、研究交流や研究成果の中間報告に努める。
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