研究課題/領域番号 |
22K02409
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
吉田 晴郎 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 准教授 (80448505)
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研究分担者 |
小路永 聡美 (花牟禮聡美) 長崎大学, 病院(医学系), 医員 (30736848)
佐藤 智生 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 助教 (10554230)
熊井 良彦 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 教授 (00555774)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 先天性難聴 / 新生児聴覚スクリーニング / 補聴器 / 人工内耳 / 乳幼児健診 / 耳音響放射 / 聴性定常反応 |
研究実績の概要 |
2022年度は、計画に沿って新生児聴覚スクリーニング(NHS)の現状把握と問題点の抽出を行った。具体的には、2022年時点で2才以上となった2019年以前の出生児において、長崎県内の新生児聴覚スクリーニング検査(NHS)結果を11年分(約10万件)解析し、要精密検査と診断された児の診断時期や経緯、聴力、難聴の原因、その後の対応・処置、難聴関連因子(画像診断や遺伝子検査の結果)を解析した。結果、refer率は1.5%と過去の報告と同程度であった。精密検査受診までの日数は徐々に短くなってきており、NHSシステムの浸透等の効果と考えられた。しかし、2015年以降は下げ止まりの可能性があり、生後3ヵ月までに当科を受診できていたのは75.5%であり、残りの児童にも高度~重度難聴を有する症例も少なくないため、いかに精密検査受診までの期間を短縮するかも今後の重要な課題と考えられた。 NHSの結果は、一側要精査が55.7%、両側要精査が44.3%で、最終的な難聴はそれぞれ52.3%、64.7%と後者での有病率が高く、重度難聴も両側要精査児に多かった。また、一側要精査と診断されていても、最終的に両側あるいは健側の難聴と診断される症例が18.7%あり、注意が必要と考えられた。NHS結果と最終診断の陽性適中率を機器別にみると、AABRでは59.8%に対し、OAE単独では23.4%と精度が低かった。予算等の問題により買い換えは容易ではないが、1つの課題といえる。 さらに、乳幼児健診(1歳半、3歳半)に耳鼻咽喉科医師が同行し、聴力評価を行う試みも並行して行えるよう、短時間で正確な評価が可能な耳音響放射(OAE)機器を購入し、健診システムの現状把握を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、現在までのNHS結果を解析することにより、以下のような問題点を明らかにすることができた。具体的には、①精密検査受診までの日数が2015年以降は下げ止まりになっている可能性があること、②生後3ヵ月までに精密検査を受診できていない24.5%の児童にも高度~重度難聴を有する症例も少なくないこと、③NHSで一側要精査と診断されていても、最終的に両側あるいは健側側の難聴と診断される症例が18.7%あること、④NHS結果と最終診断の陽性適中率は、AABRでは59.8%に対し、OAE単独では23.4%と精度が低いこと、⑤精密聴力検査を受診しない例(0.04%)や他県などの機関を受診する例(0.05%)がありNHS後のフォローが途切れること等である。 さらに、乳幼児健診(1歳半、3歳半)に耳鼻咽喉科医師が同行し、聴力評価を行う試みも並行して行った。当初は自動聴性脳幹反応(AABR)による健診を計画していたが、健診が行われている場所は防音室がなく、児童も体動などにより長時間の検査が行える状況ではないため、可能な限り短時間で正確な評価が可能な耳音響放射(OAE)機器を購入した。さらに、健診を行っている行政機関へ連絡を取り、日程を調整し実際に同行し現状を把握した結果、聴力評価を行う環境の整備、難聴が発見された場合の対処(二次精密検査機関へどのような経路で紹介するか)を整えていく必要があるという課題も生じた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題としては、NHSリファー(要精査)であった児に対し、難聴が見逃される要因や遅発性・進行性難聴のリスク因子、精密検査受診までに長時間を要する因子を明らかにしていくことが挙げられる。具体的には、①進行性難聴と診断される児がどの程度含まれ、かつ対策としてはどのようなものがあるか、②NHSを行う事が困難な症例も少なくない新生児集中治療室(NICU)での管理が必要な新生児がどのような聴覚評価を受けているのか等を把握していくことである。 また、乳幼児検診に耳鼻咽喉科医が同行することにより、少しでもNHSで把握されない難聴児の発見につながるよう、システムの現状や問題点を把握し、追加検査の要否、乳幼児健診のあり方など最良の対処法を考察していく。具体的には、防音室が無い健診が行われている場所での聴力の評価を行う環境を整備し、難聴が発見された場合の経路を行政や小児科医と相談し確立していくことが必要となる。これらが達成されれば、実際に乳幼児健診に複数回同行し、さらなる問題点を抽出しつつ、より良い健診システムの確立を目指す。 そして、最終的に考案したシステムを一定の期間実際に稼働させ、改善後のシステムで把握された難聴児の経過を追跡調査することで、その有用性を判定し、新しい制度として反映させることを目指す。これらのことにより、全ての難聴児に平等に与えられるべき療育機会を逃さず健聴者社会への適応ができるようになるなど、患児だけでなく、家族、難聴者医療に関わる者、社会へとより効率の良い医療を提供することが可能となると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
乳幼児健診システムの考案に際し、当初計画していた聴性定常反応(AABR)は予算的に厳しく、かつ実際の聴力評価に適していないため、より安価である耳音響放射(OAE)に変更することとなった。これに伴い、当初予定していた関連する周辺機器(コンピュータ等)を再考する必要が出てきた。次年度使用額は、初年度で購入する予定であった上記の周辺機器(健診に必要なコンピュータやソフトウェア、診察器具など)の購入に充てる予定。
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