研究課題/領域番号 |
22K02457
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
高谷 理恵子 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (90322007)
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研究分担者 |
原野 明子 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (10259210)
高橋 純一 福島大学, 人間発達文化学類, 准教授 (10723538)
齋藤 美智子 福島大学, 人間発達文化学類, 特任教授 (30830608)
山下 敦子 桜の聖母短期大学, その他部局等, 講師(移行) (80779752)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 身体的不器用さ / 社会的消極性 / 低出生体重児 |
研究実績の概要 |
軽度発達障害の子どもやグレーゾーンの子ども達の中には,身体の使い方が不器用な子ども達がいる。このような子ども達は身体の面だけでなく,様々な活動へ参加しにくいといった社会的な面でも不器用さを併せ持つことが多い。高谷ら(2018)は低出生体重児の身体的不器用さに対する発達支援プログラム開発をする中で,対象となる子ども達の消極性が,身体的不器用さを改善するための活動への参加を阻害している可能性があると指摘している。 高谷ら(2018)が低出生体重児の発達支援教室で出会った子どもたちの中に,教室を開催した当初,新しい環境に対して大泣きする子どもとともに,ぼーっとして動けなる子どもたちがいた。ぼーっとしている子どもは,泣き叫んだり,活動への参加を嫌がったりする訳ではなく,ただ無表情で動けない状態が長期間にわたって持続したという。我々はこのような子どもたちの反応を,Porges(2011)のポリヴェーガル理論における「凍りつき反応」はではないかと考えた。「凍りつき反応」とは、ヒトが生存を脅かされた時の防衛反応の1つで、この反応は無意識に身体の反応として残ることが指摘されている。低出生体重児は自然分娩ではなかった可能性があり、また出産後もNICUにおける胎内とは異なる環境を経験している。このような経験が心身の緊張を高める原因となる可能性を考えた。 今年度は不器用さをもつ子どもの特徴について,療育や子育て支援に携わる保育士などから聞き取り調査を実施するとともに、子どもたちの行動観察や姿勢制御の状態を把握するための研究に着手した。その結果,身体的不器用さ・社会的消極性をもつ幼児は,低出生体重児に限らないことが分かった。今後は出生体重に関わりなく,その時点での行動特徴から身体的不器用さ・社会的消極性をもつ幼児のアセスメントを実施し,その後の変化を把握することに焦点を当てていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
緊張が高く,引っ込み思案の特徴をもつ子ども達は,どんなに優れた発達プログラムを提供しても,そもそも参加できないというハードルを持つ。だが多様な身体経験を積み重ねる幼児期に,そのような活動に参加できないことの弊害は大きい。そのため,まず社会的消極性をもつ子どもの発達的な特徴を明らかにする。その上で子どもに参加してもらえるような安心できる保育環境の構築と,社会的消極性をもつ子どもでも取り組みやすい遊びを通して,多様な動きの経験を促す発達支援プログラムを開発する。 社会的消極性をもつ子どもの発達的な特徴を明らかにするために,本年度はこのような特徴をもつ子どもの実態調査を行った。保育現場において低出生体重児がどのように認識されているのかを調査した原野ら(2018)研究によると、保育の中で「気になる子」の中に一定の割合で低出生体重児がいること,しかしながら,低出生体重児の特徴として先行研究で挙げられている「消極性」や「引っ込み思案」的な特性については取り上げられていないことが明らとされている。そのため今年度は不器用さをもつ子どもの特徴について,療育機関や子育て支援に携わる保育士などから聞き取り調査を実施するともに,その子どもたちの行動観察や姿勢制御の状態を把握するための研究に着手した。 聞き取り調査では,身体的不器用さ・社会的消極性をもつ幼児は,低出生体重児に限らず,少数ではあるが正常出生体重児にも,巨大児にもいることが明らかになった。また分娩時における児のリスク評価は,母子手帳に残された記録が出生施設間で大きく異なるため難しいことが分かった。さらに保育士のインタビューでは,保育環境や家族環境によっても引き起こされる可能性も考えられ,定量的な調査による原因の追究は困難であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
我々の身体的不器用さ・社会的消極性をもつ幼児の研究は,低出生体重児の発達研究からスタートした。低出生体重児の中には軽度発達障害の子どもやグレーゾーンの子ども達の中には,身体の使い方が不器用な子ども達が多く含まれることは確かであるが、本研究でターゲットとなる身体的不器用さ・社会的消極性をもつ幼児が低出生体重児に限らないことが明らかにされた。子どもがどのようなことに,どの程度の恐怖を感じるのかについては,内的な体験で個人差が大きいことが考えられ,子どもの特性と経験とが重なり合う多様な要因により引き起こされる可能性がある。 当初の予定では,①社会的消極性をもつ子どもの発達的な特徴を明らかにした上で,②子どもに参加してもらえるような安心できる保育環境の構築と,社会的消極性をもつ子どもでも取り組みやすい遊びを通して,多様な動きの経験を促す発達支援プログラムを開発する予定だった。今後は社会的消極性を持つ子どもの要因検討については深追いせず,幼児期の発達段階における行動特徴から身体的不器用さ・社会的消極性をもつ幼児のアセスメントを実施すること,またその後の経験により社会的消極性が変化していくようなプログラムの開発を目指すことに焦点を当てて発達研究を継続する。加えて次年度は立位姿勢による重心動揺を計測することで,身体的な不器用さと社会的消極性との関係を検討していきたい。本年度は安全に幼児期の立位姿勢での姿勢制御の計測方法を模索した。今年度の経験を生かして,次年度は協力校での計測の実施を目指したい。 発達支援プログラムの開発については引き続き,療育機関や子育て支援に携わる保育士などから聞き取り調査を実施しながら,それらの子どもたちが安心していられる場づくりに関する現場の工夫やアイディアを集めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は安全に幼児期の立位姿勢での姿勢制御の計測方法を模索した。その上で協力園等で幼児の計測を実施する予定であった。しかし新型コロナウィルス感染症の流行などにより、予定していた時期に研究者が施設へ立ち入ることが困難であった。幼児の姿勢制御能力の計測については次年度に見送ることになったため、それにともなう経費も次年度に見送ることになった。
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